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「お姉様と一緒に寝たいっ!」

 夕食が終わり食後のティータイムを楽しんでいた時、突然フランがそんなことを言い出した。

「……はい?」

 食後の紅茶を飲んでいたレミリアが一瞬、動きを止める。それから、驚きと困惑とをない交ぜにしたような表情を浮かべた。

「だから、お姉様の部屋で一緒に寝たい」

 フランはその反応は聞こえていなかったから、と思ったのかもう一度言う。

「ああ、うん。それは、わかったわ。……でも、なんで?」
「お姉様と一緒に寝たいからっ!」

 弾けるような笑顔と共にそう言った。

「そう言うことじゃなくて、どうしてそう思うようになったのかしら?」
「お姉様のことが大好きだからっ」
「わっ」

 そう言いながらフランはレミリアへと抱きついた。レミリアが持っていた紅茶が零れそうになったが、咲夜がさり気なくその手からカップを受け取った。

「……でも、お姉様、乗り気じゃなさそう。私と寝るの、嫌?」

 至近距離で不安げな表情を見せられてレミリアは狼狽する。

「いやいやいやいや、そんなことないわよ!うん、私もフランと一緒に寝たいわ!」

 半ばやけくそのようにそう言った。妹の弱々しい表情には弱い。

「うんっ!」

 レミリアの言葉にフランは顔を綻ばせ本当に嬉しそうに頷いたのだった。





 その日の夜、レミリアはフランと一緒に寝ていた。
 ……いつもより、一回り小さなベッドで。

 いつもレミリアが使っているベッドはレミリアサイズなら後フタリは眠ることができそうな位大きなベッドだ。それが、部屋に戻ってみればフタリまでしか寝れないようなベッドに代わっていた。用意されていた布団もたった一つで、枕だけがフタリ分並んでいた。

 このようなことをするのはこの紅魔館において一人しかいない。
 レミリアはその一人である咲夜を問い詰めた。

 そして返ってきたのは「広いベッドではおフタリで眠る意味がなくなるのではないかと思いまして僭越ながらこのようなことをさせていただきました」という言葉だった。
 レミリアは何かを言い返そうとしたが、嬉しそうに咲夜にお礼を言っているフランを見て何も言えなくなってしまった。

 そして、今、フタリでベッドの上に横になり、フランは静かに寝息を立てている。両手はレミリアの身体に回されており、少し力を込めてレミリアに抱きついている。
 苦しくはないが身動きが取れない。
 そして、時々、「……お姉様ぁ……」と嬉しさ混じりに漏れてくる寝言がレミリアの耳朶を微かに揺らし、眠気を奪い取る。

(眠れない……)

 かと言って時間を潰すための何かがあるわけではない。最初はフランの寝顔を見つめていたりしたのだが、何となく気恥ずかしさを覚えて今は天井を見つめている。

 だから、思い返してみる。フランが、こうして自分にここまで甘えてくるようになった時のことを。


 フランのことはずっと地下室に閉じ込めていた。何故なら、フランの持つ能力は自由にさせておくにはあまりにも危険だから。使い方を誤れば何もかもを壊してしまう。
 だから、フランが何かを壊して、自分まで傷つけないように、とレミリアは考慮した。
 けど、同時に罪悪感も抱えていた。閉じ込められて自分のことを恨んでいないだろうか、何もかもから遠ざけて心の成長を止めてしまってそんなことも思えないのだろうか。

 長く、永く、何年も、何十年も、何百年も罪を意識していた。

 せめてもの罪滅ぼしに、と毎日欠かさずフランの様子を見るようにはしていた。ただ、あの頃のフランは外に興味を見せず、内に籠っていた。

 それが変わったのは紅霧異変の後。紅白の巫女が地下室から抜け出したフランを倒してしまってからだ。いや、レミリアが巫女に負けた時点で変わっていたのだろう。今までフランが地下室を抜け出そうとしたことなど一度としてなかったのだから。

 巫女がフランまでも倒した後、レミリアはフランを自由にしてやることに決めた。
 そして、自己ではなく他者に興味を向け始め自由になったフランはまずレミリアに懐き、甘え始めた。
 あまりにも予想していなかった妹の変化にレミリアは全く付いて行くことが出来なかった。

 数年経った今もまだ何処かに困惑を抱えている。
 だから、フランに甘えられるたびに戸惑いどう行動していいのかわからなくなってしまう。

 フランが眠りにつくまでもそうだった。

 何度もレミリアは話しかけられたのだがその反応はどこかたじたじだった。けど、フランは嫌がっていない、というのはわかっていたのか勝手に抱きついたりして、本当に嬉しそうな表情を浮かべていた。レミリアに触れられることが掛け替えのない幸せであるかのように。
 レミリアにはどうして、フランがそのような表情を浮かべられるのかがわからない。

 ……自分のことが嫌いではないのか。閉じ込め、自由を奪われ、自分のことを恨んでいるのではないか。何度かそう聞こうとした。

 けれど、妹のこととなると極端に憶病になってしまうレミリアは今になってもそのことを聞くことは出来ないでいた。
 こんなにも近くにいるというのにフランが何を考えているのか全く分からない。

(明日、あいつに頼んでみるかな……)

 考え事をしているうちに訪れた睡魔に揺らされる意識の中、もうヒトリの姉のことを思い浮かべていた。





「フランドールさんが何を考えているかわからないから私に心を読んできてほしい、ですか。……ついに諦めてしまいましたか。吸血鬼としての自尊心はどうしたんですか?」

 地霊殿の主であるさとりが対面に座るレミリアを見て呆れたように言う。

「し、仕方無いじゃない!……いつも、いつも、言おう、言おう、って思うんだけど、いざ、フランを前にすると、言えなくなるのよ」

 顔を伏せていじけたように言う。

「まあ、いいんですけどね。レミリアさんがそれでいい、と言うのなら」

 レミリアがこうしてさとりの所へと訪れるようになったのはつい最近のことだ。神社へと遊びに行った時、たまたまフタリは出会い、さとりがレミリアへと助言を与えたのが最初だった。助言、とは当然、レミリアいつも気にかけているフランとのことに関してだ。
 ちなみに、さとりの最初の助言は「言いたいことははっきりと言う」だった。そして、今までもそれは変わっていない。

 あまり、部外者に頼ろうとしないレミリアがさとりにだけは助言を聞きに行くのは彼女がレミリアと同じ姉、だからだろう。

「それで、レミリアさん。私はどうすればいいのでしょうか。紅魔館に行けばいいですか?それとも、ここにフランドールさんを連れてきてくれますか?」
「フランの所に行くなら、私も付いてく!」

 突然フタリの間に割って入ってきたのはさとりの妹のこいしだった。無意識に動いている彼女は突拍子のない行動に出ることが多々ある。
 ちなみに、彼女はいつの間にか紅魔館の中に侵入し、フランとも知り合いなっている。

「あ、こんにちは、レミリアお姉ちゃん」

 今ごろレミリアの存在に気がついたかのように挨拶をする。最初はそんな風に扱われて不機嫌になっていたレミリアだが、何度も同じことをされていると慣れてしまった。そもそも、怒った所で飄々としているので無意味だと気付いたのだ。

「ええ、こんにちは、こいし。……で、そうね。私としてはどちらでもいいんだけど、貴女はどちらがいいかしら?」
「私も別にどちらでもいいですね。……あ、食事も出してくれるんですか?でしたら、うちのペット達も連れて行っていいでしょうか」
「……勝手に人の心の中を読んで話を広げるんじゃないわよ」
「あ、私、ミートソーススパゲッティが食べたい」
「話を聞かずに自分勝手な発言をするんじゃないわよ!」

 マイペースな姉妹を前にしてレミリア激昂。しかし、姉妹は動じた様子もない。

「まあまあ、落ち着いてください。うちではあまり豪華な料理なんて出せないのでどうしてもそういった話には食いつきたくなってしまうんですよ。それに、貴女の所の従者が作る料理は絶品だと聞きます」
「そうそう、咲夜お姉ちゃんが作る料理ってすっごく美味しいんだよ」

 時々、フランの所へと遊びに行くために紅魔館へと訪れているこいしは、その度に咲夜の作るお菓子などを食べている。そして、時には食事時に訪れていつのまにか食事の席に加わっていたりする。度々、食事が終わるまでそのことに気付かなかったりする。
 しかし、咲夜だけはこいしが食事の席に加わっている瞬間に気付いているようだった。こいしの前に料理が並んでいなかったことは一度としてないのだから。

「…………まあ、いいわ。今日は貴女達を私の館に招待してあげるわ。ペット達も連れてくるといいわ。……その代わりに、私の頼んだこと、ちゃんとやるのよ」

 自らが誇る従者が褒められて悪い気はしないのか、それ以上何かを言うことなく地霊殿のモノたちを館へと招待した。

「わかってます。任せてください。……こいし、お燐とお空を呼んできてくれる?」
「うん、いいよ」

 頷いてこいしは部屋から出て行く。
 レミリアとさとりはその背中を何となく目で追いかけていた。

「……ああ、そうだ。レミリアさん」

 そして、ふとさとりが思い出したように言う。

「何よ」
「私はロールキャベツが食べたいです」
「…………」

 この姉妹は……、と思わずにはいられないレミリアであった。





 レミリアは地霊殿一行を引き連れて紅魔館へと帰ってきた。外は今昼間なのでレミリアは紅色の傘を開いている。
 帰ってきたといってもまだ館までは距離があり、紅魔館の姿が見えてきただけだ。

「わぁ、大きな建物ですねぇ。……ここでは、どんな地獄を管理しているんでしょうか」
「お空、大きな建物が全て地獄を管理しているわけではないのよ」
「うにゅ?そうなんですか?」
「ええ、そうですよ」

 少し常識はずれな空にさとりは呆れた様子を一切見せず会話を続ける。

「こいし様は何回かこの屋敷に来てるんですよね?どれくらい広いんですか」
「すっごい広いよ。見た目以上に広いから迷わないように注意しないと」
「見た目以上に広い?そんな特殊な建築技術を使ってるようには見えませんけど」
「うん、なんかね、咲夜が空間を弄ってるんだって」

 こいしと燐は並んで目に付いたもの関しての会話を続ける。

「……」

 全員そんな様子だったので、レミリアは一切会話に加わることが出来なかった。
 加わりたい、とは思っていないが、正直少し寂しい。

「レミリアさんも私たちの会話に加わりませんか?」
「……今更気に掛けるくらいなら、最後まで気にしないで欲しかったわ」
「ええ、わかっていますよ」
「わかってるんなら話しかけてくるんじゃないわよ!もしくはもっと早く話しかけてきなさいよ!」

 さとりの言葉にレミリアはがーっ!、と怒りをぶつける。

「いえ、レミリアさんから話しかけてこないかなー、と思って待っていたんですよ。ここまで話しかけてこなかったので不憫に思って話しかけてあげたんですよ」
「……ほんとにそんなことを思ってるのかしらね」

 胡乱な瞳をさとりへと向ける。

「ええ、思っていますよ。友人である私を疑うんですか?」
「こういう時の貴女の発言はどうも信じ難いわ」
「ふむ、そうですか。では、今後は気をつけます」

 レミリアからの疑いを解くことなくそう言った。

「気をつけるっ?何を気を付けるつもりよ!」

 傘を手にしたままさとりへと詰め寄る。

「まあ、いろいろと、ですよ。……それよりも背中、傘から出てますよ」
「とと、もう少しで焦げるところだったわ」

 少し煙の立ち昇る羽を揺らしながら、ほっと一息をついた。さとりのことはもうどうでもよくなっていた。





「お帰りなさいっ!お姉様!」

 レミリアが扉を開いた途端、従者よりも早くフランが笑顔を浮かべて飛びついて来た。
 フランは自由になってからというもの、レミリアが外から帰ってくるたびにこうして抱きついて出迎えていた。最初の頃は驚いてそのままフランに押し倒されていたレミリアだが、今ではすっかり慣れてしまったもので少々ぎこちなさを見せながらもフランを軽く抱き返している。

「……お姉様、そのひと達は?こいしは、わかるけど」

 今更さとり達の存在に気付いたかのように問う。レミリアに抱きつくのもやめて身を隠すようにしている。

「さとりとそのペット達よ。……それよりも、どうしたのよ?そんなに隠れるようにして」
「……だって、外から来るひとって怖いんだもん……」

 そう言いながらフランは一層レミリアへと身体を押しつける。護ってくれるのはレミリアしかいない、とでも訴えるかのように。

「何を言ってるのよ。さとり達は何もしないわよ。……あ、もしかして」

 レミリアは何かに気付いたかのように声を漏らす。

「もしかしなくてもそうでしょうね。……初めまして、フランドールさん。私はさとり、と言います」

 さとりはフランに視線を合わせるようにゆっくりと身体を屈ませる。

「さとり……。こいしのお姉さん、だよね」

 おずおずとそう聞く。

「ええ、そうですよ。こいしと一緒にいて、どうですか?」
「うん、楽しい、よ」

 怯えを滲ませながら迷いなく答えた。その答えにさとりは満足そうな笑顔を返す。

「そうですか。それはよかったです。これからも、こいしのこと、よろしくお願いしますね」
「……うん」

 最後にはさとりから視線をそらしてしまったが、さとりは特に気にしていないようだ。

「フラン、咲夜の所にお菓子を貰いに行こう?」
「うん、いいけど。ちょっと待って」

 打って変ってこいしの言葉には自然体で答える。
 そして、ぎゅっ、とレミリアに抱きつく。訳がわからずレミリアは戸惑い、何も出来ない。
 そのまま十数秒後、フランは手を離した。その際にレミリアへと笑顔を向ける。

「じゃあ、お姉様、こいしと遊んでくるね」
「お姉ちゃん、フランと遊んでくるね」

 妹フタリはそう言って館の奥へと行ってしまった。

「レミリアさん、フランドールさんが極度のひと見知りである上に誰かに会うことを恐れているって知っていましたか?」
「……今、初めて知ったわ」
「まあ、霊夢さんに負けてから一度も外に出てない上に、その間に会ったのがこいしだけでは気付けないでしょうね」
「全く持ってそうね」

 溜め息混じりに頷く。そんなことも気付けなかった自分自身に呆れているかのように。

「館の皆はこのことに気付いてたのかしらね」


「ええ、気付いていましたよ」


 何の前触れもなく咲夜の声が割って入ってきた。レミリアは当然慣れているので平然とした様子だが、さとり達はかなり驚いているようだ。

「さ、さとり様!今の、今の見ましたかっ?突然、人間が現れましたよ!」
「???」

 燐は驚き戸惑い、空は訳がわからなくなっているようだ。

「これが、レミリアさんの従者ですか。事前に知識があってもこれは、驚きますね」

 既に咲夜に関しての知識をレミリアの心の中から入手していたさとりは他のフタリに比べれば随分冷静な様子だった。
 咲夜はそんな地霊殿一行を一瞥してから主の言葉に答える。

「パチュリー様も、美鈴も、小悪魔も、妖精達も、私も気付いてましたよ。特に、妖精たちはメイド服を着ていないと怯えられる、とか言ってましたね」
「……で、そんな中私だけ気付いていなかった、というわけね」

 フランのことはきちんと考えているつもりだった。しかし、それは自分をどう思っているのか、それだけに偏っていてフラン自身のことはあまり考えられていなかった。
 また、溜め息をつきたくなる。

「お嬢様は気に病む必要もないと思いますよ。フランお嬢様との距離の取り方がわからずずっとお悩みの様ですから。……後ろの方たちはフランお嬢様との距離を取り戻すために連れてきた方たちですよね?」

 持ち前の鋭い洞察力で何も聞かずとも言い当ててしまう。

「まあ。やってくれるのはヒトリだけなんだけどね」
「そうなんですか。……貴女がそのヒトリ、ということでいいんでしょうか?」

 言って、咲夜はさとりの前に立つ。主の連れて来た客人、ということでその口調は丁寧だ。

「あってますよ。……あ、我が侭なのは十分承知していますので気になさらずに」
「?」

 咲夜はさとりの言葉に首を傾げる。余り表に出そうとはしていないようだが、そこには驚きも混ざっている。
 自分が言おうとしたことに対して言う前に答えが返ってくれば当然の反応であろう。

「私はさとり妖怪ですので心の中で考えていることがわかるんですよ」

 咲夜は「へぇ」と言葉を漏らす。

「……珍しいですね。人間なのに私に心を読まれていると知ってなお、怯えも拒絶もしないなんて」
「読まれたところで困るようなことは考えていませんから」

 肩を竦めてそんな風に言う。

「……今日の夕御飯はロールキャベツでお願いします」
「わかりました。腕によりをかけて作らせていただきますわ」
「えっ!ちょっと、なんで咲夜は何の疑問もなく頷いてるのよ!」

 咲夜がさとりの何の脈絡も無いお願いに何の戸惑いも見せなかったのが納得いかないらしい。

「丁度、夕食を何にしようか考えていたところですので。それにしても、今日の夕食は賑やかになりそうですね」

 完璧な従者は言われずともさとり達がここで夕食を摂る、という所まで予測したようだ。
 咲夜こそさとり妖怪なんじゃないだろうか、とレミリアはふとそんなことを思った。





「フラン。さっきレミリアお姉ちゃんに抱きついてたけど、なんで?」

 廊下を歩きながら唐突にこいしがそんな問いを投げかける。

「うん、ちょっとの間お姉様と離れちゃうから、その間の寂しさを出来るだけ埋めるように、っていうおまじない」

 そう言いながら名残惜しげに背後を振り返る。

「あー、なんか悪いことしちゃったかな?」
「ううん、何で?」
「フランをレミリアお姉ちゃんから離すようなことをしちゃったから」
「気にしなくてもいいよ。こいしと遊ぶのも楽しいから」
「うん、そっか」

 フランが本当に気にしていない、というのが分かっているのか、こいしはそれ以上気にした様子を見せない。無駄に気にかけるよりは今をそのまま楽しむ方がいい、と思っているのだ。

「いいなぁ、フランはお姉ちゃんに自分の言いたいことを言ったり、やりたいことをできたりして」

 羨ましそうな色を混ぜながらそんな呟きを漏らす。

「こいしってなんでも自由にやってると思ってたんだけど違うの?」

 フランはこいしの顔を覗き込みながらそう聞く。

「あんまり意識をしてない時はね。ただ、あんまり意識しすぎちゃうと、どうも二の足を踏んじゃうんだよね」
「そうなんだ。……こいしはさとりに何かしたいこととか言いたいことがあるの?」
「うん。お礼をね、言いたいんだ」
「お礼?」

 こいしの言葉に小さく首を傾げる。合わせてサイドテールが揺れる。

「私、心を閉ざしたばっかりの時は本当に何にも意識してないで、なんとなく意識の端に引っかかったことに流されるようにしてたんだ。何にも興味を持たないで、何にも興味を持たれないで、そんな、生き方をしてたんだ。……でも、お姉ちゃんだけは私のことを気にかけてくれてて、なんとか私の閉じた心を開かせようとしてくれたんだ。……ううん、今もそうしてくれてる」

 閉じた第三の目を両手で優しく包み込むようにする。それは、無意識なのか、それとも意識的なのか。

「そのおかげで、私はまたちょっとは意識を持って動けるようになったんだ。そのことに関してお姉ちゃんにお礼を言いたいんだ。……意識し過ぎちゃってどうやって言えばいいのかわかんなくなってるんだけどね」

 なはは、と気恥ずかしげに笑う。

「……こいしのお姉さんも、お姉様と同じなんだね」
「うん?」
「私のお姉様はね。私をずっと、地下室に閉じ込めてたんだ。お姉様は何も言わなかったけど、それは私の為なんだって気付いてた。私の能力は危険だし、私自身性格がそんなに安定してるわけじゃないから」

 少し重い口調でそう語る。こいしは真剣に耳を傾けているようだ。

「でもね。お姉様はそんな私に毎日会いに来てくれた。いつ、私の感情が不安定になってお姉様を壊してしまうかわからないっていうのに。……だから、私はお姉様を壊さないように必死に自分を抑えてた。だから、かな。私はこうやって安定していられるようになった。お姉様のおかげで私は今笑えるようになったんだ」

 そう言ってフランは笑顔を浮かべた。

「そうなんだ。レミリアお姉ちゃんもフランのことを想ってたんだ」

 しみじみと感想を漏らす。

「うん。だから、お姉様は最高のお姉様なんだよ」
「む、私のお姉ちゃんの方が最高だよ」

 足を止めてフタリは睨みあう。けど、すぐにフタリは笑いだした。それは優劣をつけるべきモノではなく、お互いの心の中で大切にすべきことだと分かっているから。

「こんなことで争っても無駄だよね」
「うん、そうだね」

 笑うのを止めたフタリは頷き合う。フランがこいしと打ち解けることができたのは、こいしがフランの無意識の間に入り込んだからだけではなく、どこか似た者同士だからこそ波長が合うのだろう。

「あ、そうだ。これを機会にフタリが言いたいことをお姉様たちに言ってみない?私、お姉様が私を自由にしてくれたことだけに浮かれててお礼を言えてないんだよね」
「それは、いいけど。どうやって言えばいいのかわかんないよ」

 今までずっと無意識に行動を委ねていたこいしはどう意識的に動けばいいのかその感覚がよくわからない。

「でしたら、私にいい考えがあります」

 そして、割って入ってきたのは咲夜の声。

「いい考え?」

 真っ先に声に反応したのはフランだった。

 地下室から出たばかりの頃は、何処にいても現れる咲夜に驚いていたフランだが、今ではすっかり慣れたものだ。ちなみに、地下にいた頃には決まった時間にだけ現れていた。
 対してこいしは初めてここに訪れたときから突然現れる咲夜に驚いた様子は見受けられなかった。むしろ、興味深そうであった。

「はい。いつもと違うことをしていれば、そのまま成り行きでいつもは言えないことも言えるのではないでしょうか」
「ふぅん……。こいしは、どう思う?」
「どう思う、って言われても……。でも、何だか面白そう。何するの?」
「ええ、それは―――」





「さてと、フランドールさんからレミリアさんのことをどう思っているのか聞かなくてはならないのですが、フタリは何処かに行ってしまったんですよね。レミリアさん私はどこに行けばいいでしょうか」
「まずは、フランの部屋にでも行ってみましょう。それから、図書館、台所ね」

 レミリアとさとりが長い廊下を歩きながら会話をする。

 さとりのペットである燐と空は自由にさせている。
 燐は話が合いそうだから、と美鈴の元へと向かって行き、空は偶然通りかかったパチュリーによって図書館へと連れていかれてしまった。

「レミリアさんの部屋には行かないんですか?」
「私の部屋?……私の部屋にいるとは思えないけど」
「でも、一緒に寝てるんですよね?昨日からですが」
「……まあ、そうね」

 勝手に心を読むな、と突っ込みたい衝動を抑えて頷く。今更そんなことを言ったところで仕方がないのだ。

「だったら、レミリアさんの部屋を自分の部屋の様に使うこともあるんじゃないでしょうか」
「でも、私の部屋にはあの子の物は何にもないわよ。あったとしても枕くらいなものよ」
「フランドールさんの物であるか、ではなく、レミリアさんの物であるかどうか、の方がフランドールさんにとって重要そうですけどね」
「?どういうことよ」

 さとりが言ったことの意味がわからないようで首を小さく傾げている。

「まあ、わからない、というなら気にしないでください」
「……そんな風に言われると余計に気になるんだけれど」

 けど、そう言ったところでさとりが何も答えてくれない、ということは百も承知だった。

「そろそろ、私がどういった行動をするのか読まれるようになってしまいましたね」
「当たり前よ。主たるもの敵であれ味方であれどういったことを考えて行動しているのか把握するのは重要なことだもの」
「でも、フランドールさんが何を考えてるかわからないんですよね」

 さとりの一言にレミリアは言葉を詰まらせた。





「パチェ、フランたちはここに来なかったかしら?」

 フランの部屋には誰もいなかったのでレミリア達はすぐさまパチュリーの図書館へと向かった。

「ん?来てないわよ」

 空の周りに魔法陣を描きながらパチュリーはおざなりに答えた。魔法陣を描くことに集中しているようだ。

「あの、何をしているんでしょうか」

 さとりが不安げにパチュリーに声をかける。心の中を読むことは出来ているのだが、今パチュリーの中に浮かんでいるのは魔法の術式ばかりで魔法の知識が皆無なさとりには何のための術式なのかさっぱりなのだ。

「耐衝撃、耐熱、耐圧を同時に備えた魔法結界を構築してるのよ。この子の力を魔法の参考にしたいんだけど、こんな所で何の用意もなく撃たせるのは危ないからね」

 魔法陣を描く手を止めないまま答える。

「……危険は、ないんですよね?」
「この子が力を暴走させない限り大丈夫よ」
「そうなんですか?……お空、危険を感じたらすぐに力を使うのをやめるのよ」
「うにゅっ、わかってます!」

 空は元気よく答えた。

「じゃあ、お空くれぐれも、気を付けるのよ。……では、レミリアさん、行きましょう」

 不安は払拭しきれていないみたいだが、このままここにいても仕方無い、とレミリアの方へと向き直る。

「心配性ね」
「レミリアさんがフランドールさんを心配するのと同じですよ。……まあ、お空は度々周りが見えなくなるので、余計に心配なのですが」

 図書館から出るまでの間、さとりはちらちらと空の方へと振り返っていた。





「あっ!レミリアお嬢様!」

 レミリア達が台所へと向けて廊下を歩いていると、向こう側から小悪魔が走り寄って来た。

「ん?どうしたのよ」
「フランドールお嬢様達から伝言を預かってるんです。北のバルコニーで待っている、とのことです」
「それだけ?」
「はい、これだけです。咲夜さんと何かしてたみたいですけど……何をしてるかは教えてくれませんでしたね」

 レミリアとさとりは互いに顔を見合わせる。どういうことだろうか、と推し測っている。

「ありがとう、伝えてくれて」

 ここで考えても仕方無い、とレミリアは小悪魔の方へと向き直る。

「いえいえ〜、お気になさらず〜」

 そう言って小悪魔は去って行った。

「とりあえず、探す手間が省けた、と思えばいいのでしょうか」
「ま、そうね」

 さとりの言葉にレミリアは短く答える。
 そして、言われたとおり、バルコニーの方へと向かって行った。





「あ、来た来た。お姉ちゃん!こっちこっち」

 バルコニーの出入り口近くに立っていたこいしがさとりへと向けて手を振る。そこにフランの姿は無い。

「あら?フランがいないわね」
「奥にいるのではないでしょうか。何かの準備をしているのか、それとも私に心を読まれたくないのか……」
「フランが隠し事?珍しいわね」
「まあ、あくまで予測ですけどね」
「お姉ちゃん?どうしたの?」
 フタリが立ち止まったままなのを不審に思ったのか駆け寄ってくる。
「フランドールさんの姿が見えない、と思って」
「フランにはちょっと別の準備をしてもらってるんだ。それよりも、お姉ちゃん、付いてきて」

 そう言ってさとりの手を掴んで引っ張っていく。

「あ、ちょっと、こいし!」

 さとりがこいしの名を呼ぶがこいしは立ち止まらずそのままさとりをバルコニーの奥まで連れて行った。

「よしっ、これで作戦成功っ」

 レミリアの位置からは古明寺姉妹の姿が確認出来なくなったとき、誰も居らず、何も無かった場所からフランが現れた。

「フラン?ずっとそこに隠れていたのかしら?」
「うんっ。さあさあ、お姉様も付いてきて」

 レミリアはフランに手を引かれてバルコニーへと入っていった。北側に作られたこのバルコニーには陽がさしていない。
 バルコニーの端と端にテーブルが一つずつと、椅子が二脚ずつ置かれている。テーブルの上にはティーポットとティーカップのセットが乗せられている。

 片方側には既にさとりとこいしが座っており、フランがレミリアを連れて行ったのはその反対側のテーブルだった。

「お姉様、ここに座って待ってて」

 フランはレミリアを椅子に座らせるとテーブルの上に置いてあったティーポットを手に取り、カップへと注いで行く。

「紅茶?」
「うんっ。私が淹れたんだよ。お姉様の口に合うかどうかわかんないけど、飲んでみてっ」

 笑顔で紅茶を差し出す。レミリアは妹の行動に少々戸惑いながらもカップを受け取る。

「ありがとう」

 そして、フランの緊張の混ざった視線を受けながら紅茶を口に含んだ。
 咲夜が淹れたものには劣るが、それでも、美味しいと思えるだけの出来であった。それに、フランが初めて淹れてくれた紅茶だ。美味しくないわけがない。

「……うん、美味しいわ。初めて淹れたとは思えないわ」
「やったっ!お姉様に褒めてもらえたっ!」

 零れんばかりの笑顔を浮かべ、羽をパタパタと揺らす。レミリアはフランの様子を見ながら自然と笑みが浮かんでくるのを感じる。

「……それにしても、なんでこんな回りくどいことをするのかしら?さとり達と離れる必要なんてないんじゃないかしら?」

 ちらりと横に視線を向けて地底の姉妹の姿を見た。声は聞こえてこなかったがさとりがティーカップを持ったまま何かを言っていた。向こうの紅茶を淹れたのはこいしだろう。

「うん、それはね。こいしがさとりに言いたいことがあったからなんだ。私たちみたいな部外者を混ぜるよりはフタリっきりの方が話しやすいだろうと思ってね」
「でも、なんでフランは隠れていたのかしら?」
「こいしのお姉さんを驚かせようと思ったんだ。心が読めるんなら私が出てきたら何をするのかばればれでしょ?」
「ああ、そういうことね」

 納得したように頷く。

 再び振り返って見てみるとさとりが驚いたような表情を浮かべていた。そして、微笑みを浮かべた。

(あんな表情、見たことがないわね……)

 嬉しさだとか、優しさだとか、愛おしさだとか色んな感情がない交ぜになったような微笑みだった。

「こいしは、上手くいってるみたいだね」

 レミリアと同じようにして古明地姉妹の様子を見ていたフランがそう言う。

「ええ、そうみたいね」

 フランの方へと向き直りそう答えた。
 レミリアはこいしが何を話したのかは知らないし、予想も出来ない。けど、あの表情を見れば上手くいっているというのは明白だろう。

「お姉様、実はね。私もお姉様に言いたいことがあるんだ」

 今までの弾んだような口調とは打って変わって、真剣みを帯びた口調となる。
 レミリアはその変化を感じ取り身構える。何を、言われるのだろうか、と。

「お姉様はずっと私のことを閉じ込めてたよね」

(ああ、さとりに心を覗いてもらうはずだったのに……)

 けど、実際にはフランの方からその話を振られてしまった。

 今までずっと逃げて来た。最悪の答えが――表面上では何でもないように振舞いながら本当は自分のことが嫌いだ、という答えがあるのではないかと怯えて。
 しかし、もう逃げることは出来るはずがない。ずっとずっとずっと心配し続けていた妹が話しだそうとしているのに、それから逃げられる姉がいるだろうか。

「でも、お姉様は私の力が危険だって気付いてたんだよね。それを使う私自身の精神も。だから、閉じ込めてたんだよね」
「……ええ、そうよ」

 徐々に、徐々にレミリアの中に渦巻く不安が大きくなっていく。
 何を、何を言われるというのだろうか。なんで自由にさせてくれなかったのか、もっとまともな方法はなかったのか―――。

 自らにぶつけきた非難の言葉がフランの声で再生される。
 けれど、レミリアの思いに反して、続くフランの声はとても穏やかだった。

「そんな危険な私にお姉様は毎日、毎日、毎日会いに来てくれた。そのお陰で私は見捨てられたんじゃない、って思えた。お姉様が私のことを想ってくれてるんだ、ってわかった。だから―――」


「―――ありがとう、お姉様」

 フランが浮かべたのは吸血鬼を焼く太陽よりもなお眩しい笑顔だった。


「へ……?」

 予想外な言葉にレミリアは素っ頓狂な声をあげた。
 それから、ふらふらと彷徨うように言葉を声に出す。

「え、いや、でも、貴女は、私のことが嫌いなんじゃ……」
「なんで?私はお姉様のこと大好きだよっ。誰よりも何よりもどんな存在よりも!」

 これ以外の答えはどれも真実には届かない、とでも言うように弾むような声で断言する。

「だって、私、貴女のことをずっと、閉じ込めてたのよ?」
「むぅー、お姉様、ちゃんと私の話、聞いてた?」

 少し不満そうに頬を膨らませる。

「えっと、……ごめんなさい。正直、ちゃんと聞いてなかったわ」

 フランに何を言われるのか。そればかりを気にしていたせいで半分も頭の中に入ってきていなかったようだ。唯一、ありがとう、という言葉だけはしっかりと聞いていたようだが。

「じゃあ、もう一回だけ言ってあげるね。私を地下に閉じ込めてたのは私の為なんだ、って気付いてたんだよ。だから、そのことでお姉様のことを嫌いになるなんてあり得ないよ」

 そう言いながら、フランは椅子から立ち上がり、反対側のレミリアの方へと近づいて行く。

「フラン……?」
「ちゃんと私の話を聞かないお姉様にはお仕置きが必要だねっ」

 実に楽しそうな笑顔を浮かべながらレミリアへと顔を近づける。レミリアは何を言われるのだろうか、と身構えている。

「ねえ、お姉様は今まで誰かとキスをしたことある?」

 囁きかけるような声。

「?ない、わよ?」

 そんなことを聞いてくる意図がわからないながらも律儀に答える。

「じゃあ―――」

 フタリの顔の距離が零となり―――



 ―――そして、フランの唇がレミリアの唇へと触れた。



「んな……。なっ!」

 レミリアが意味のない声を出し、顔を真っ赤に染め上げる。羽がバタバタと揺れており、かなり気が動転しているようだ。

「ふふ、お姉様の初めて、貰っちゃった」

 小さく舌を出して悪戯っぽくそう言う。レミリアほどではないがその頬は微かに朱に染まっていた。そして、虹色の羽がパタパタと揺れている。

「な、な、なん、何で、何でこんなことをっ?!」

 動転しながらも何とか意味ある言葉を紡いだその言葉は少し裏返っていた。

「お姉様の初めてが誰かに取られるなんて耐えられなかったんだもん。私のもあげたんだからこれであいこだよっ」

 お仕置き、というのは単なる方便だった、とでも言うように嬉しそうに告げる。

「……」

 レミリアは、もう何を言えばいいのかわからない、といった風に口をぱくぱくとさせることしかできない。

「お姉様、どうしたの?変だよ、そんなことしてると」

 レミリアの反応にフランは首を傾げる。どうして、姉がこんな状態になっているのかわからないようだった。





 あの後、咲夜が間に入ったことでなんとかレミリアは気を落ち着かせた。
 それからは、紅の姉妹と地底の姉妹の使っていたテーブルを近づけてヨニンでお茶会を楽しんだ。
 フランは始終レミリアにくっつきっぱなしで、それに感化されたのか気が付けばこいしもさとりにくっついていた。
 レミリアはフランに唇を奪われた後だったのでどうにも落ち着かなかったみたいだがさとりは嬉しそうだった。

 それから、さとり達とそのペット達も交えた夕食が終わり、レミリアとフランが地底からの客人達を見送っていた。

 お茶会の間にさとりには慣れた様だが、ペットのフタリにはまだ慣れていないようでフランは、レミリアの後ろに隠れている。

「すいません、レミリアさん。今日は、約束を果たせなくて」
「別にいいわよ。私が知りたいことは知ることが出来たから。それに、お茶会、楽しかったわ」

 そう言ってさとりに微笑みを向ける。

「そうですね。また、いつかやりましょう」

 さとりもレミリアへ笑みを返す。

「お姉様、こいしのお姉さんになにか頼んでたの?」

 レミリアに抱きついたままフランはレミリアを見上げる。

「ええ、ちょっとした頼み事よ」

 それだけ答えて具体的なことは答えようとしなかった。

「ふーん」

 フランも事実確認をしたかっただけで詳しいことを知りたかったわけではないようだ。

「ああ、そうです。約束を果たせなかった変わりに、別のことを教えて差し上げましょう」
「別のこと?」
「はい。……少し、耳をお借りしますね」

 そう言ってレミリアに近き、レミリアだけに聞こえるような小さな声で告げた。

「フランドールさんのことですが、貴女に対して恋慕のような感情を持っているようですよ」
「なっ……?」

 言葉を詰まらせ、さとりの顔を見る。

「まあ、レミリアさんがどう思うかは勝手ですけど、今日のフランドールさんの言動を思い出してみてください、とだけは言わせてもらいますね」

 付け加えるように告げて、レミリアの耳から口を離した。

「今日は、ここに来てよかったと思います。また、こいし達を連れてきますね」

 さとりが踵を返す。

「ばいばい、フラン」
「うん、ばいばい、こいし」

 こいしが手を振り、フランはレミリアの後ろから出てきて手を振り返した。
 そして、フタリのペットは会釈をして、主とその妹を追いかけて外へと出て行った。
 玄関には紅の姉妹だけとなってしまった。

「ねえ、こいしのお姉さんに何を言われたの?私の名前が聞こえてきたような気がしたんだけど」
「へっ?い、いや、そうね。うん。貴女のことは、大切にした方がいいっていうアドバイスを貰ってたわ」

 気が動転しながらもレミリアは嘘をついた。言葉にしてはいけない、そんな気がしたから。

「そうなの?お姉様は十分私のことを大切にしてくれてるよ。……でも、今よりももっとずっと大切にしてくれる、って言うんなら嬉しいなっ」

 そう言って、フランはレミリアへとぎゅっと抱きつく。
 レミリアはさとりの言葉を思い出しながらどうするのが最適なのかを考え続けていた。

 今夜もまた眠れなさそうだ。


FIN



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