満月に照らされる霧に覆われた湖の湖畔の道を歩く少女がサンニン。

 彼女たちは一様に背中から漆黒のコウモリのような翼を生やしている。また、彼女たちの瞳は全員、紅色だった。

 彼女たちは姉妹だった。しかし、翼と瞳を除けばその容姿は異なっている。

 先頭を歩いているのは金髪の少女。髪を片側だけ紅いリボンで結わえている。

 その後ろではフタリの少女が並んで歩いている。あまり似ていないが、フタリは双子だ。

 ヒトリは色素の薄い髪を、もうヒトリは銀色の髪を同じくらいの長さに伸ばしている。

 翼を持つ彼女たちが歩いて移動していることに意味はない。いや、それ以前にどこかを目指しているわけでもない。
 サンニンの中の誰かが何処かへ行こう、と言いだした。何処、とは決めていなかった。

 けれど、それでも誰も反対はしなかった。サンニンの内の誰もが何処かへ行かないといけない、そう思っていたのだ。

 歩こう、と思ったのも単にそちらの方が空を飛んで進むよりも何かを見つけられるような気がしたからだ。

「お姉様、もう、疲れたわ」
「うん、そうだね。……でも、座れるような場所がないからね。おんぶしてあげようか?」

 色素の薄い髪の少女の言葉に金髪の少女はそう答えを返す。

「――に譲るわ。貴女だって疲れてるでしょう?」
「生憎――――お姉様みたいに柔じゃないから結構よ」
「む……。そう、なら、私ももうちょっと頑張ってみるわ」
「ふふ、――――は偉いね」

 金髪の少女がそう言いながら色素の薄い髪の少女の頭を撫でる。

「当然よ。妹に情けない姿は見せてられないわ」

 尊大な態度でそう告げる。彼女は次女だがこの三姉妹の中では一番態度が大きかった。だからといって、自分勝手、というわけでもない。

「―――お姉様、あそこに建物が」
「あ、ほんとだね。あそこで休ませてもらおうか」

 銀髪の少女が指差した先には紅い館が建っていた。

「……でも、なんだろう。懐かしい感じがする」
「そうね。私も感じるわ」
「私もよ」

 サンニンがサンニン、同じ感じを抱いていた。

「まあ、なんにしろ、行ってみればわかるよね。――――、――、あともうひと踏ん張りがんばろ」

 金髪の少女がフタリへと笑顔を向けた。双子は頷いて答える。

 そして、サンニンは再び歩き始める。


「ここまで来るとこの館の大きさがすごくよくわかるね」

 門番が立っていそうで実際には立っていなかった門を抜けて姉妹は紅の館を見上げていた。

「……それにしても、全体が紅いだなんて異常な館ね」
「そうかしら?とっても素敵じゃない」

 銀髪の少女が呆れたように言うと、色素の薄い髪の少女は嬉々とした様子で答えた。

「それは、――――お姉様が紅色が好きだからなんじゃない?」
「そうかもしれないけど、……でも、それだけじゃないような気がするのよね
「まあ、なんだかわかるような気もするけれど」

 双子は共に釈然としないような様子だった。

「―――お姉様は何か感じる?」

 フタリは同時に長女へとそう問い掛けた。双子というだけあって、容姿はあまり似ていなくとも息はぴったり合っているようだ。

「うーん、そうだね。私も何か不思議な感じはするよ。……もしかしたら、私たちはこの館に呼ばれて歩いてきたのかもしれないね」

 金髪の少女が双子の言葉に頷くように言う。

「ま、何にしろここまで来たら入るしかないわよね」

 そう言いながら銀髪の少女が大扉の木で出来た扉叩きで中のモノへと呼びかける。

「中の人が入れてくれなかったらどうしようもないけどね」
「その時は無理やりにでも入るわよ。入れなかったら単なる徒労じゃない」
「――――、駄目だよ?そんな乱暴なことしたら」
「……わかってるわよ」

 色素の薄い髪の少女は渋々ながらも頷いた。

 と、音を立てて扉が開かれる。

「お待たせしましたー。……あ」

 中から出てきたのはメイド服を着た妖精だった。背中まで伸ばした茶色の髪をうなじの部分で赤色のリボンで結わえている。
 そして、首からは銀の懐中時計が掛けられていた。

 三姉妹の姿を見て何やら驚いているようだ。

「あの、こんにちは。突然で済みませんが、この館の主と会うことは出来ますか?」

 金髪の少女が代表してそう聞く。その声で妖精は驚きによる自失から立ち直る。

「今は私が一応の主、ということになってます」
「ふーん、妖精がこんな大きな館の主をしてるなんて珍しいわね」

 色素の薄い髪の少女が興味深げに妖精を見つめる。
 銀髪の少女は興味を持っているのとは違った視線を向けている。

「なんだか、貴女とは一度何処かで会ったような気がするわ。でも、貴女みたいな妖精なら絶対に覚えてるだろうし、思い違いかしら?」
「……いいえ、そんなことはありません」

 妖精の言葉にサンニンは合わせて首を傾げる。

「お帰りなさい、咲夜さん、レミリア様、フランドール様」

 最上級の笑顔を浮かべてそう言った。
 今度は姉妹が驚く番だった。


 静かに、懐中時計の音が響く。

 カチッ、カチッ、カチッ……

 狂わず、乱れず、止まらずに。
 時間は流れ続けている。

 時には交わったり、分かれたりしながら。
 これは、そんな交わり分かれ再び交わった時間のお話―――。

Fin



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