自室の真ん中にあるテーブルに据え置かれた椅子の一つに座って、一人考えごとをする。

 昨日、お姉様たちに相談に乗ってもらった結果、さとりと話をしに行くべきだということになった。
 お姉様もパチュリーもそして私自身も、こいしと話をするのが最重要だと思っていたけど、こいしの力とあの態度、それから会いに来るなと言ってきたことから、こちらから会いに行くのはほとんど不可能だという結論が出てきた。
 私が何度も地霊殿に行って、こいしの部屋に居座っていたらそのうち出てくるかもしれないけど、会いに来るなと言われた矢先にそんなことをする度胸はない。だから、代わりというわけではないけど、さとりに会いに行って、とりあえず情報収集をすべきだということになった。

 そんなわけで、今はさとりに何を聞こうかと考えている。
 ただ難しいことが一つある。それは、昨日のさとりの態度は自分の気持ちや考えを隠しているようだったということだ。
 相手は心を読めるわけだから、半端な気持ちで臨んでも簡単にいなされてしまうと思う。そもそも、私は相手の裏の心情を予測しつつ話を進めるなんてことをしたことがないから、例え心を読まれていなかったとしても、さとりから情報を引っ張り出すのは難しい気がする。
 お姉様は心を読めることを逆手にとって、根拠のない確信を持っていどめばなんとかなるんじゃないだろうか、みたいなことを言っていたけど、まずその根拠のない確信を持つことが難しい。

 このままでは、いつになってもさとりの所へと向かえない気がする。
 お姉様たちは大まかな行動の方針は考えてくれたけど、質問することの内容のような具体的なことまでは決めてくれなかった。お姉様は関わる本人が一番わかってるだろうからと、パチュリーは自分で悩んで結論を出した方が柔軟に対応できるからとそれぞれ言っていた。
 だから、一人で考えるしかないんだけど、答えが出てくる未来が見えてこない。

「フランドールお嬢様。紅茶をお持ちしました」
「あ。ありがと」

 私の集中力が散漫になるころを見計らったかのように咲夜が現れる。手には銀色のトレイがあり、白磁のティーポットとカップ、それからマフィンの並べられたお皿が乗せられている。
 カップはなぜか二つある。時間を操ってほとんど一瞬でお茶の用意ができる咲夜がその場にいない人の分まで用意するのを見たことがない。

 私の疑問をよそに、咲夜はテーブルにお皿とカップ二つを並べる。もしかして、誰かがこの部屋に来るんだろうか。それぐらいしか考えられないけど、お姉様が来るなら席に着いてから用意を始めるはずだ。

「咲夜。そのカップは何?」

 対面の席に置かれたカップを指さして聞いてみる。

「すぐに分かりますよ」

 悪戯っぽい笑みを浮かべてはぐらかされてしまった。なんだろうか、この反応は。
 釈然としない気持ちを浮かべる私を気にした様子もなく、咲夜はカップに紅茶を注ぐ。すると、柔らかな香りが広がった。
 いつもとは違うようだ。なんだかとても落ち着く。この釈然としない気持ちもどうでもよくなってきた。

「いつもと違う紅茶?」
「はい、そうです。朝からずっと考えごとをしているようなので、心を落ち着かせることのできるようなブレンドにしてみました。早速効いてきましたか?」
「うん。ちょっと落ち着いてきたよ」

 今なら先ほどまで考えていたことをもう少し冷静に見つめられそうだ。だからといって、解決策が出てくるということはなさそうだけど。

「何かいい案は思い付きそうですか?」
「……ううん、どうしていいのか全然わかんない」

 咲夜には何も話していない。でも、咲夜はいつだって館の中でのできごとを誰よりも把握している。
 だから、当たり前のように私が何に悩んでいるのかわかっていても不思議だとは思わない。

「やはりそうですか。そんなお嬢様のために素敵な訪問者をお連れしてきました」

 そう言うと、咲夜の前に誰かが現れる。あまりにも意外すぎる人物の登場で、一瞬誰なのかわからなかった。

「……別に、フランに会いたくて来たわけじゃない」

 ものすごく不機嫌そうなこいしがこちらを睨んでくる。咲夜に肩を押さえられ、自由に動けなくなっているようだ。
 私は、驚きを隠すこともせずに、目で咲夜にどういうことかと問いかける。

「厨房でつまみ食いという不届きなことをしようとしていたところを捕らえたので、こうしてフランドールお嬢様の所へ連れてきたんですよ。お嬢様がこいしのことを気にしている事は伺っていましたので」

 そう言って、こいしの肩から手を放す。こいしは逃げ出そうとする様子も見せず、じっと私の方ばかりを睨みつけてきている。私はどうやってこいしを受け入れればいいのだろうか。

 咲夜は私たちの間の妙な雰囲気の中でも、平然とした様子でもう一つのカップにも紅茶を注いでいく。なんとなく楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。

「では、私は失礼させていただきます。お二人ともごゆっくりとどうぞ」

 そして、紅茶を注ぎ終えるとすぐに姿を消してしまった。もともと気まずかった空気が余計に気まずくなってくる。図書館に逃げ込もうかと一瞬考えたけど、こいしをこのままにしておけないとも思って、ここにとどまることを選ぶ。

「えっと、とりあえず座ったら……?」

 昨日拒絶されたばかりだから、どう接すればいいのかがわからない。だからといって、何もしないというわけにもいかないだろうから、とにかく私の対面の椅子に座ることをおずおずと勧めてみる。

「ねえ、なにあれ」

 でも、こいしは椅子に座ることなく、かなり端的な質問を飛ばしてきた。流れからして咲夜のことを聞いているのはわかるけど、その意図がわからない。
 だから、とりあえず紹介をしておく。その中にこいしの望んでる答えがあるかもしれないし。

「名前は十六夜咲夜で、この館のメイド長をやってて、こいしにあげたお菓子を作ったのもあの人だよ」
「そういうことじゃなくてっ。なんで、能力を使ってる私のことを見つけられるのかってことっ!」
「え、っと、……咲夜は、いっつも館中に気を配ってるから、それでこいしに気づいたの、かも」
「でも、私は気づかれないように力を使ってた。それでも気づかれたのはなんで?」
「えっと、……なんでだろう」

 咲夜には完璧な存在でなんでもそつなくこなせるというイメージがある。さらには、神出鬼没ということもあって多少枠を外れたようなことをしても不思議ではない。
 そんな説明だと、こいしは納得するどころか怒り出しそうな気がするから言わないけど。

「役立たず」
「……だったら、咲夜に直接聞いてみればよかったんじゃないかな?」
「……やだ」

 何故か拗ねたようにそっぽを向く。興味があることには食いついていくものだと思っていたから、なんとなくだけどらしくないような気がした。

「えっと、なんで?」
「フランには関係ないっ」

 怒ったような口調で答えて、私の対面の椅子に座る。でも、私の顔を見たくないのか、マフィンを手に取ると横を向いてしまった。
 乱暴に一口ずつ頬張っていく。でも、おいしいものの力には抗えないようで、少しずつ顔が綻んでいくのがわかる。

 こいしは、昨日私が持っていった咲夜の作ったお菓子を食べてその虜になってしまったのかもしれない。だから、厨房に侵入したのだろう。
 私と向き合ってるときも柔らかい態度を取ってくれたら、少しは話しやすくなる気がする。

「……なに?」

 横顔を見つめていたら、睨み返された。せっかく柔らかい態度になってきていたのに、一気に鋭くなってしまう。もともと私のことが嫌いみたいだから、お菓子だけではどうしようもないのかもしれない。

「こいしは、甘い物好きなの?」

 嫌われてるかもしれないからといって、話しかけないわけにもいかない、と思う。こいしとさとりの妙な関係を改善させるには、こいしから話を聞いて、どうにかしてさとりに会いに行かせるべきだろう。
 それとも、ここはこいしのことを気遣って部屋から出ていくべきだったんだろうか。

「別に」

 そう言うと、椅子を動かしてこちらに背中を向けてしまう。でも、その前に二つ目のマフィンを掴んでいたから嫌いということはないのだろう。好きなのかはわからないけど。

 私はこいしの背中を眺めながらマフィンを一つ取る。こいしの顔は見えないけど、また表情を緩ませているんだろうか。
 その表情を私に見せてくれないのは別にいい。
 でも、さとりたちを避けるようになる前はさとりに対しても隠そうとしたりしていたんだろうか。それとも、素直にその無防備な姿を見せていたんだろうか。
 そうやっていろいろと考えながらマフィンを少しずつかじる。味わうことに全然集中してなかったから、味がよくわからなかった。それがひどくもったいなく感じたから、一旦考え込むのはやめて、咲夜のお菓子の方へと集中することにする。昨日、地霊殿に行ったときもそうだったけど、どうやら私は甘い物を前にすると切り替えが早くなるようだ。

 改めてマフィンを一口かじる。そうすると、鼻の奥を香ばしい匂いがくすぐり、口の中では甘さがじんわりと広がる。その二つが交わるときが至福のときだ。自然とため息が漏れてくる。
 もう一度同じ感覚を得ようともう一口かじる。香ばしい匂いを感じ取れるのは、マフィンを口元に近づけてからの少しの間だけなのだ。

「見ててものすっごく焦れったくなるような食べ方」
「……そうかな?」

 口の中の分を飲み込んでから、首を傾げる。こいしは不機嫌そうなのは相変わらずだけど、呆れが少し混じっているようだ。

「でも、おいしいものだとゆっくりと味わいながら食べたいなぁって思わない?」
「思わない。そんなにちんたら食べてたら、誰かに取られるし」

 そう言いながら、こいしが早くも三つ目のマフィンを手に取ってかぶりつく。残りも少なくなってきている。
 でも、こいしがおいしいと思って食べてるなら、ほとんどをこいしに食べられてもいいかなと思っている。その方がこいしの機嫌がよくなるような気もする。
 少なくとも、昨日会ったときほどの鋭さは感じられなくなっている。
 心の底から、甘い物は偉大だなぁと思う。

「取るっていっても、この部屋にはこいしと私くらいしかいないけどね」

 だからか、突然こいしが現れたことによる動揺が引いてくると多少余裕が出てきた。深いところまで入り込んでいけるかはわからないけど、普段の調子で話すことはできそうだ。

「……」

 こいしは私の言葉に返事をすることなく、マフィンを黙々と食べる。お茶会には会話が付き物だけど、こいしはそれを望んでいないようだ。相性が最悪らしいのはお互いに承知してるから、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
 でも、せっかくこうして同じ空間にいる機会があるのだから、お互いに黙っているのはもったいない気がする。そんなことを考えてるのは、こいしだけでなくさとりのことも気にしてる私だけなんだろうけど。

 話題が見つからないから、私もマフィンをゆっくりと口に運ぶ。さっき十分に味わったから、こいしの方へと意識を向けながら味を楽しむ。
 こいしは変わらず私が数口食べる量を一口で食べている。背中は向けていないけど、顔をそらしている。

「……つまんないから何か面白いことして」
「え? えっと?」

 三つ目のマフィンを食べ終えたこいしが、脈絡もなしにそんな無茶振りをしてきた。

「だーかーらー、つまんなくてお菓子が美味しく食べれないから、面白いことしてって言ってるの」

 心底不満そうな表情を浮かべながら、声に合わせてテーブルを三度叩いてこちらを見る。いやだと答えられるような雰囲気はない。

「……そういうことするの苦手だっていうの、わかってるよね?」

 それでも、心ばかりの抵抗を試みてみる。

「うん、致命的に苦手そうだね」

 率直にそう言ってくる。
 私がそういうことに向いていないとわかっていて私に頼むのはどうしてなんだろうか。私の無様な姿を見て楽しむとか?

「でも、そんなふうに壊滅的なまでにエンターテイナーに向いてなくても、他人を楽しませることを生業としてる人の力を借りれば多少はましになるんじゃない?」

 そう言って、こいしは部屋のある一点へと視線を向けた。自分の部屋だから何があるのかは知っているけど、つられたように同じ方を見る。
 そこには、私の身長よりもずっと大きな本棚がある。お姉様がどこからか持ってきてくれた本ばかりがぎっしりと収められている。

「自分で読んだ方が面白いんじゃないかなぁ」
「お菓子を食べながら読めると思う?」

 まあ、ごもっともな意見だ。私がお菓子を食べられなくなるということに釈然としないものを感じるけど、別にいいかと気持ちを入れ替える。
 こいしとさとりの間にある妙な距離をどうにかするには、こいしをさとりに会わせる必要がある。だから、ここでこいしの要求を呑めば、後々私のお願いを聞いてくれるようになってくれるようになる、といいなぁ。
 今にも別の物に混じって見えなくなってしまいそうなほどに淡い期待を抱きながら、いつの間にか手元に現れていた真っ白なテーブルナプキンで手を拭く。
 ナプキンは咲夜が置いていったものだろう。常に館の中で何が起きているのか把握しているから、こちらから何も言わなくても適切な行動を取ってくれる。本当に優秀な従者だと思う。

「……わかった。じゃあ、何がいい?」
「一番面白くて楽しいやつ」

 端的でわかりやすい要求だった。楽しいということは、明るい話ということだろう。私も甘いお菓子を食べてささやかな幸せに浸っているときに暗い話や重い話を読みたいとは思わない。
 でも、一番面白いとなるとかなり難しい。そもそも一番面白いなんて人それぞれだと思う。

 とはいえ、聞いたものを無碍にするのも悪いから、本棚へと向かいながら記憶の中を漁る。
 私の趣味ってこいしに合うのかなぁ。
 本を決める時点から、不安でいっぱいになっていた。




「フランはもっと喋る練習した方がいいよ」

 帰り際にこいしが残したのはそんな辛辣な感想だった。自覚があるとはいえ、真っ正面から非難を言われればへこんでしまう。それが読んでいる途中だとなおのこと。
 こいしが扉の向こう側にいなくなるのと同時に、先ほどまで朗読していた本を胸に抱いてテーブルに突っ伏した。カップは脇に寄せてあるから、安全に倒れる場所は確保されている。

 そのまま大きなため息を吐く。
 淡い期待を抱くことさえおこがましいほどに私の朗読の腕前は壊滅的だった。黙読をしているときとは勝手がかなり違う。声に出している箇所を目で追いかけていると追いつかなくなってきたり、そもそも書いてあるままを声に出すのが思っていた以上に難しかったり。
 他人の力を借りてもこいしを楽しませられなかった私に、こいしに少しでも心を許してもらうなんて無理なんだろうなぁ、なんて思ってしまう。

「フランドールお嬢様、お疲れ様です」

 不意に頭上から私を労う声が聞こえてきた。

 億劫さを感じながらも顔を上げてみると、咲夜が立っているのが見えた。手には薄黄色の液体の注がれたグラスの乗った銀のトレイがある。

「ありが――」

 お礼を言おうとして、咳が出てきた。長時間喋るようなことがないから、喉をやられてしまったようなのだ。口を閉じているときは気にならないけど、声を出すといがいがする。

「大丈夫ですか? 喉が痛いときは無理して喋らない方がいいですよ。とにかく、これを飲んで喉を潤してください」

 咲夜がグラスを私の前に置く。柑橘類の酸っぱくて爽やかな香りが鼻腔を抜けていく。
 咳が落ち着くのを待ってから、グラスをゆっくりと傾ける。
 舌を刺激するほどの酸っぱさに口を離しそうになるけど、後からやってきた甘さがその刺激を和らげてくれる。レモンの爽やかさがすっと喉を潤し、甘みが喉を柔らかく覆う。

「喉の痛みには、レモネードがいいそうですよ」

 そう言ってから、レモンやハチミツの話をしてくれる。私がこいしに散々に言われて落ち込んでいるのを紛らわせるためにそうしてくれているのかもしれない。

 でも、痛めた喉をレモネードで労りながら意識するのは、咲夜の明朗な声だ。
 私とは全然違う。私の喋り方は咲夜のものとは比べられないくらいに酷かった。聞いていたこいしは、私が何を言っているのかわからなくなっていたかもしれない。現に、こいしが立ち去ったのはお菓子がなくなったその瞬間で、私の朗読を聞いていなかったという証拠だろう。
 そうして圧倒的な差を見せつけられると、咲夜がこいしと関わっていった方がいいんじゃないだろうかと思ってしまう。

「お嬢様? どうかなさいましたか?」

 でも、この問題は私が勝手に首を突っ込んでいるだけで、咲夜には一切関係がない。だから、そんなことを口にしたところで意味なんてないだろう。

「……どうやったら、咲夜みたいに上手に喋れるようになるのかなぁ、って」

 代わりにそんなことを口にしてみる。ちょっと回りくどいような気はする。

「レミリアお嬢様がお聞きしやすいようにと常に心がけていたら、今のような喋り方になりましたよ。なので、心の持ちようが大切なのではないでしょうか」

 とっても咲夜らしい答えだった。でも、その後で自然に一般的な形に言い換えている辺り、咲夜の優秀さが窺える。

「とはいえ、私も朗読の方法は知りません。まあ、何度か声に出して読んで練習してみればいいのではないでしょうか? 少なくとも、詰まらずに読む、声を出す練習にはなると思いますよ」

 知らないと言った割には的確な指示のような気がする。単に私も何も知らないからそう思うだけかもしれないけど。

「なんにせよ、一度の失敗で諦めず、何度も何度も挑戦することが肝要だと思いますよ」
「うん。……でも、相性の悪い私ががんばってうまくいくことなんてあるのかな?」

 嫌われていてもなお、朗読だけでも気に入られるためには、万人に賞賛されるほどうまくならないといけない気がする。それこそ、天才と呼ばれる人が努力を重ねた上で辿り着くくらいの高みに到達するくらい。

「確かに相性が悪ければ、いくら頑張ったところで成果は出てこないでしょうね」
「そう、だよね」
「しかし、お嬢様のことに関しては、悲嘆することはないと思いますよ。一つ、いいことを教えて差し上げます」

 咲夜は笑みを浮かべながら、人差し指をぴん、と立てる。

「こいしは、一度も私と顔を合わせようとはしませんでした」
「それは――」
「どう受け取るかはお嬢様の勝手ですが、後ろ向きに考えていいことなんてないですよ」

 ――私に対して敵意を抱いていて威嚇してるからなんじゃないだろうか。
 そう言おうとしたのに、言葉をかぶせられてしまって、私の声はしばし迷子となってしまう。

「もしかしたら嫌われてしまうのではないかなんて考えながらレミリアお嬢様に悪戯を仕掛けるよりも、呆れたような表情や不意を打たれて驚いた表情を浮かべて、最後には笑いかけてくださるのではないだろうかと考えた方が幾分も楽しいですよ」
「それとこれとは、違うんじゃないかなぁ……」

 そもそも罪悪感を抱きながらするような悪戯があるんだろうか。私はされる側だけど、悪戯を仕掛けてくる人たちはいつも楽しそうな気がする。
 とはいえ、咲夜がお姉様に仕掛けてる悪戯は度が過ぎてるとは思う。いくら影響がないとはいえ、茶葉に毒草とかを混ぜて使うのはどうなんだろうか。

「そうでしょうかね?」

 咲夜がとぼけたように首を傾げる。本気なのか冗談なのかはよくわからない。

「ともかく、次は朗読でこいしを魅了してみせるというくらいの意気込みで練習してみてはどうですか? 失敗するなんて考えながら練習するよりはずっとやる気がでると思いますよ」
「うーん……、参考にはしてみる」

 さすがにそこまでの自信は持てない気がする。でも、いつも自信を持っているような態度の咲夜は、そうやって今まで成功させてきたのかもしれない。
 だから、私もそれを見習い、自信を持ってみようと意識してみることにした。


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