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「じゃあ、こいし、フランお嬢様のこと、頼んだわよ」

 いつものように私が紅魔館のフランのお部屋を訪れて、いつものように咲夜が紅茶を用意してお部屋から出て行った。
 そして、いつもならこの紅茶を堪能した後、フランを連れて外へと行くんだけど今日はちょっと違う。

「フラン、これ、あげるよ」

 私はいつもはない小さな鞄から真紅のリボンでラッピングした赤い箱を取り出す。両手に乗るくらいの大きさがあるそれをフランに渡す。

「? 何これ?」

 箱を持ったままフランが首を傾げる。金糸のような髪がさらさらと揺れる。紅い瞳には不思議がるような色が浮かんでいる。

「開けてみればわかるよ」
「開けてもいいの?」
「どうぞどうぞ。それは私のものじゃなくてフランの物だからね」
「うん」

 頷いて、リボンの端を掴む。それをゆっくりと解いていく。ちょっとだけ緊張してるみたい。
 私もその気持ちは分かる。誰かからプレゼントを貰ってラッピングを解くとき、妙にどきどきしてしまうのだ。
 何が入ってるんだろう、どんな素敵なものなんだろう、って。

 フランは解き終えたリボンを丁寧に折りたたんで机の上に置く。そこは私と違うなぁ、って思う。私ならプレゼントばっかりが気になってリボンなんかに気を配ったりしないだろうから。

 そして、ついにフランがゆっくりとリボンの解かれた箱を開けていく。それと同時に甘い香りが周囲に広がる。

「チョコの匂い? ……わ」

 フランが小さく驚きの声を漏らす。

 箱の中に入っていたのはちょっと不恰好なチョコケーキ。真っ黒なチョコの上に白いチョコで『フランありがとう』と書かれてる。

「これは……?」

 箱の蓋を持ったままフランが私を見る。ちょっとだけ困惑の色。

「私の手作りだよ。お姉ちゃんに手伝ってもらいながら作ったんだ」
「そうなんだ。でも、この『ありがとう』っていうのは?」

 やっぱりそこに疑問を持つんだね。予想通りだ。

「この前、香霖堂って所に行ったとき外の世界の本を見つけたんだ」

 そう言って私はフランにこの時期、外の世界で行われるバレンタインと呼ばれるイベントについて説明してあげた。
 元々は女の子が好きな異性にチョコをあげるっていうイベントだったらしいけど、最近(そんなイベントの存在なんて知らなかったから最近も何もないんだけど)では女の子同士で感謝の気持ちを伝えるためにチョコを渡すようにもなっているらしい。

「私、こいしに感謝されるようなことなんてしてない」

 私の説明を聞いたフランが小さく首を振る。

「そんなことないよ! フランはいっつも私と一緒にいてくれるし、フランと一緒にいれば私も楽しいよ」
「私も、こいしがいてくれれば嬉しいし、楽しいよ。……でも、私、なんにも用意してない」

 何も用意してないことを申し訳ないと思っているのかしゅん、とうな垂れてしまう。そんな表情が見たいんじゃないよ!

「大丈夫だよ。フランがこのケーキを私と一緒に食べて、お話してくれれば私はそれだけで十分だから」
「でも、それだと釣り合わない。私もこいしと一緒にケーキを食べて話が出来ればこれ以上にないくらい嬉しいから」

 むー、フランは色んなことを気にしすぎだと思う。こんなちっぽけなケーキ一つのことなんて気にしなくていいのにさ。
 私は、ただ―――

「フラン」

 引っ込み思案で他人思いで、色んなことを背負いすぎる私の初めてのお友達の名前を呼ぶ。

「じゃあ、どうしても私に何かお返しがしたい、って言うんなら笑顔を見せてよ」
「え……?」

 フランが動きを止める。気にせず私は続ける。

「私はフランの笑顔が大好きなんだからさ」

 フランの天使みたいな笑顔。私はあれに魅了されてしまったからずっとずっとフランの傍にいてあげたい、と思うのかもしれない。
 フランのあの笑顔が見れるならたぶん、何だって犠牲にすることが出来る気がする。

「ほらほら、ケーキ食べよ。咲夜の仕事を増やさないためにちゃんとフォークとかも用意してきたんだよ」

 鞄の中から包みで包んだ食器類を出す。フォークを一つずつ、フランと私の前に用意する。お皿はチョコケーキの横に置いておく。

 それから、私はナイフを握る。
 さてさて、どう切ろうか。普通に切っちゃうとフランへの言葉を切っちゃうしなぁ。
 もうちょっと切るときのことを考えて文字を入れればよかったかも。

 どうしようかと悩みながらチョコケーキの上でナイフがふらふら。

「フラン、ごめんっ」

 フランへ謝りながらケーキへと切れ目を入れた。結局、文字ごと切ることにした。フラン、ほんとにごめん。

「大丈夫、気にしなくても」

 フランがそう言ってくれたけど、微かに浮かぶ笑みは微妙にぎこちない。私の言葉、気にしてるのかな。

 でも、そんな笑顔も私の作ったチョコケーキを食べれば変わってくれるはずっ。だって、フランは甘いものが大好きだし。

 そんなことを考えながらケーキを一つずつお皿に乗せる。一番大きいのをフランに。二番目くらいのを私が貰う。

 これで準備完了。紅茶は咲夜の用意してくれたものがある。

「さ、どうぞ」

 早くフランの感想を聞きたくてそう促す。

「うん、いただきます」

 フォークでケーキを一口大に切って口へと運んでいく。そして、小さな欠片がフランの口の中へと入れられる。

 箱を開けるときのフランじゃないけど、私もなんだか緊張してきた。
 初めて誰かのために作った料理。その感想は、

「……美味しい……」

 ぽつりとそんな感想を漏らす。

「ほんとっ?」

 私は思わず椅子から立ち上がってしまう。

「うん、すごく美味しい。……ありがと、こいし。私のために作ってくれて」

 先ほどまでのぎこちない笑顔はどこへやら。私が待ち望んでいた最高の笑顔を浮かべてくれる。
 眩しいくらいの笑顔は直視できないくらい。でも、私はその笑顔を見ないことがもったいなくてフランの顔をじっと見つめてしまう。

「こ、こいし?」

 私の視線に耐えられなくなったからかフランが恥ずかしそうに私から視線を逸らしてしまう。ああ……。

 でも、なんだろう。私の作ったものを食べてそれだけで笑顔を浮かべてくれることがこんなにも嬉しいなんて! なんだか癖になりそう。
 楽しそうに料理を作るお姉ちゃんの気持ちがなんとなくわかったような気がする。

「フラン、私こそありがと。最高の笑顔を見せてくれて」

 私の素直な言葉にフランは私に顔を向けてまた―――

「うんっ」

 ―――笑ってくれた。





 その後に食べたケーキは味見したときの何倍も美味しく感じられた。



Fin



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