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「ねえ、薙刀の使い方を教えてほしいのだけれど」
「うん、いいよ」

 博麗神社へと訪れて来た能面の付喪神である秦こころに以前から頼もうと思っていたことを口にしてみると、あっさりと頷きが返ってきた。普段の言動から、断られるようなことはないだろうと思っていたけど、理由さえも聞かれることがないとは。まあ、不都合はないから気にするまでもないか。

「でも、私のは舞のためのものをなんとか実戦に耐えるようにしてるだけだから、本格的なのに比べると劣るけどだいじょうぶ?」
「だいじょうぶ。こころの真似をしてみたいと思っただけだから」

 私―少名針妙丸―は能を舞っているときのこころの姿に強さを見出していた。それは、他者を圧倒して折れさせるものではなく、ただそこにいて輝いているような強さ。私はそれを欲しいと思ったのだ。真似をした程度で手に入れられるとは思っていないけれど、何かヒントのようなものくらいにはなってくれるかもしれない。

「そうなの? まあ、それならそれでいいけど。そういえば、薙刀はどうするの? 持ってる?」

 こころは不思議そうな表情の面を頭の辺りに浮かべて首を傾げる。そういえば、頼むことばかり考えていて、道具のことが頭になかった。私の小さな身体では、どこかから借りてくるということもできない。押しつぶされるのが関の山だ。小槌の魔力は大方回収できたから、大きくなることはできるけど、あまり無駄遣いはしたくない。

「持ってないわ。だから、今度までに用意しておくわ」

 手先の器用さには自信がある。だから、程良い長さの木でもあれば自分で作れるだろう。近くにちょうどいい木がなければ、霊夢か魔理沙にでも頼んでみよう。

「わかった。じゃあ、用意ができたら教えて」
「ええ。お願いね、こころ」
「任せて」

 そう言って、こころは無表情なまま胸を張るのだった。
 そこに、一切の虚勢がないことが羨ましい。





 木製の薙刀を一週間かけて用意して、こころに薙刀の扱いを教えて貰う用意は整った。こころは地面の上に立っているけれど、私は縁側の上にいる。視線の高さの関係でこうするしかなかったのだ。足下にいては、動きをしっかりと見ることができない。

「こんなふうに両手で薙刀を持って、肩と切っ先を相手に向けるようにして」

 こころが私の前で構えを取る。私は見様見真似で切っ先をこころの方へと向けてみる。
 手塩をかけて作った薙刀は、私の手にしっくりときている。でも、構えがまだ身体に馴染んでいなくて、どうにもちぐはぐだ。薙刀を掴む手と構えをとる身体とが別々の存在となってしまっているかのような違和感がある。
 それに対して、こころの姿は本当に様になっている。普段はどこかぼんやりとした印象だけど、今は纏っている雰囲気が凛と引き締まっていて、格好良くさえ見える。

「そこから、切っ先を真上まで上げて、踏み込みながら振り下ろして」

 そう言いながら、昼間の月を手元に寄せてきたかのような蒼色の薙刀を振り上げる。蒼は青空の中には溶け込まず、陽の光の当てられて一層強い存在感を放っている。

「はぁっ」

 綺麗に澄んだ掛け声とともに、半月が落ちてくる。でも、地に落ちることなく私の視線の先でぴたりと止まった。
 私はしばしその一連の流れに見惚れる。やっぱり格好良い。

「こんな感じ。やってみて」

 こころが構えを解く。少しもったいないけれど、今の目的は観客となることではない。
 気持ちを切り替えるために一度深呼吸をする。これで、こころと同じような雰囲気を出せていればいいけど、こんなことを考えてしまっている時点で駄目なんだろう。
 薙刀を振り上げる。

「やぁっ」

 振り下ろす。
 薙刀に振り回されるようなことはなかったけど、切っ先は震えている。やっぱり、一度くらいではこころに近づくことはできないようだ。

「ちょっと肩に力が入りすぎてるかも。あんまり私の真似をしようって思いすぎないようにして」
「わかったわ」

 とはいえ、慣れていないことをするとなると、力の入れ具合がよく分からない。身体が大きくなって、普段以上の力が身について色々できるようになったときには振り回されてたなぁとふと思い出す。
 あの時は、練習を繰り返していく内に、ちゃんと動けるようになっていった。だから、薙刀の使い方もがんばっていれば形となるだろう。
 そのために、薙刀を振り上げる。

「やぁっ!」

 私なりの裂帛の気合いを込めて振り下ろす。昔の無知でよわっちいだけの私を気迫だけで追い払えるようになろうと思いながら。





「そろそろ、休憩にする?」
「そ、そうね。そう、しましょう……」

 こころの少し上がった息での言葉を聞いた直後に、私はその場に座り込む。今更ながらに、自分が疲れているということに気がつく。

「水、貰ってくるから、休んでて」
「うん、お願い……」

 こころは私と違ってまだ余裕はあるようだ。私が頷くと、しっかりとした足取りで本殿の方へと向かっていく。勝手に家に上がらない辺り、礼儀正しいなと思う。
 呼吸を整えるため、深呼吸を繰り返す。普段から動かないということはないけど、慣れていない動きのせいで無駄に体力を消費してしまったような感じだ。明日は、筋肉痛かもしれない。
 座り込んだまま、疲労の中に意識を浮かばせてぼんやりとする。心地よい。春の陽気と併せて、このまま眠ってしまえそうだ。

「お待たせ」

 目をしばたかせながら思考を停止させていると、木の盆を持ったこころが行ったのと同じ方向から戻ってくる。台所で水を汲んできて、勝手口から出てきたようだ。
 盆の上には、水瓶と湯飲みが乗っている。こころは私から少し離れたところに腰掛けると、水を注ぎ始めた。

「どうぞ」

 水の注がれた湯飲みを差し出してくれる。それは、私が正邪に連れられて、実家から出るときに持ってきた小人用のものだ。こころはそれを二本の指で器用に持っている。

「ありがと」

 私はそれを受け取って、早速口をつける。渇いた喉が潤っていく感覚に、ほうと息をつく。
 ちらりとこころの方を見てみると、彼女の頭には機嫌の良さそうな表情の面がくっついていた。視線を追いかけてみても、春の陽光に照らされる境内の様子が見えるだけで、特別なものは何もない。でも、そんな景色を楽しんでいるのだろう。私が陽気に当てられて、ぼんやりと意識をたゆたわせるのと同じように。
 さっきまで格好良かったのに、今では既にのんびりとした雰囲気を纏っていて、親しみやすさがある。その切り替えの早さが強さの証なのだろうかと、裏付けのないままに学んでいく。

「どうかした?」

 こころがこちらの視線に気がついて首を傾げる。

「何を見てるのかなーって」
「春になって、ここから見える景色の雰囲気も変わったなーって思いながら見てた。最近は、気持ちいい天気が多いよね」

 思っていた通りだった。

「そうねー。心地よすぎて、眠くなっちゃうくらいね」
「なら、このまま昼寝でもする?」
「ううん。まだまだ、薙刀の使い方を教えて貰いたいわ。こころが昼寝したいなら、私も付き合うけど」
「私はまだ動いてたい気分。じゃあ、そろそろ再開する?」
「うん、そうね」

 私が頷いたのを見て、こころが立ち上がる。手に蒼い薙刀が現れる。
 私も手製の薙刀を手に取って立ち上がった。





「あんたたち、まだやってたのね」

 日暮れとまではいかないものの、日が傾いてきた頃、呆れた声でそんなことを言われた。声の主は、この神社に住む巫女、博麗霊夢だ。手には箒を持っているけど、そいつはきっとそれほど掃除に寄与していないだろう。
 集中が途切れたせいか、どっと疲れが押し寄せてきた。足から、力が抜ける。

「うん。針妙丸が真面目にやってくれるから。でも、そろそろやめるつもり」

 こころが床に手を突いて座り込む私を見てそう言う。動けるようになるまでしばらくかかりそうだし、その頃には日も沈んでしまっているだろう。
 少々名残惜しくはあるけど、また今度稽古をつけてもらえばいい。今はがんばるだけの体力が残っていない。

「なんかかなり疲れてるみたいね。あんた、そんなに厳しくやったの?」
「うーん、そのつもりはなかったんだけど、この様子だとそうなのかも。ごめんなさい」

 こころが老婆の面を付けて頭を下げる。

「私が、やりたくて、やったことなんだから、謝らなくても、いいわ。……はあ」

 無理に喋ったら、息が続かなかった。

「……だいじょうぶ?」
「休めば……」
「じゃあ、ゆっくり休んでて。霊夢、また水を貰っていい?」
「はいはい、どうぞ」
「ん、ありがと」

 こころは盆を持って台所へと向かっていく。私は床の上に横たわったままそれを見ていることしかできなかった。

「頑張ってんのね、あんた」

 霊夢が私の傍へと座り込みながら、そう言ってくる。箒は適当に立てかけられている。

「結果は、なんにも、出せてないけどね。……まだまだ、力不足だなーっていうのを、実感、するわ」
「突然力を付けたら異変に他ならないわね。面倒が起こらない内に片づけるわよ」
「だよねー……」

 焦ってもどうしようもない。それがわかっていても、今すぐにでも力が欲しいと思ってしまう。それが、単純な力なのか知力なのか魅力なのか明確に定めもしないで。

「そういえば、あの天邪鬼はまだせこい真似を続けてるみたいよ。人里の近くで見たって言うのを聞いたわ」

 若干面倒くさそうな声色を混じえてそう言ってくれる。
 正邪のことで何か動きがあれば教えて欲しいと言ったのは私だ。霊夢の第一印象は、面倒くさがりだから、たぶん教えてくれないだろうと思っていた。でも、思いの外頻繁に正邪のことを教えてくれたり、私のお願いも聞いてくれた。
 考えてみれば、私を保護してくれているのだから、なんだかんだと面倒見はいいんだと思う。

「そうなんだ……」

 正邪はまだ幻想郷をひっくり返そうとしているのだろうか。少なくとも、逃避行は今もまだ続けているようだ。いつかは、本気となった幻想郷の妖怪たちに狙われてしまうかもしれないのに。

「お待たせ?」

 お盆を持ったこころが戻ってきた。私を挟んで霊夢の反対側へと座る。私が身体を起こすと、湯飲みに水を入れて渡してくれた。
 水を一口飲むと、それだけで身体に沁み渡っていくような感覚があった。

「なんの話をしてたの?」
「正邪っていう天邪鬼の話。そういえば、あんたんところの狸がちょっかいかけてたわね。あれは何しようとしてたの?」
「んー……。なんか考えがあるみたいだけど、よくわかんない。味方にできそうなら引き込むし、自分に利益が出そうなら敵でも塩を送るような人だから」
「そんな腹の底がわかんないやつとよく一緒に暮らせるわね」
「道具は使い方を間違えられなければ裏切らない。それに、傍に置いてくれてるってことは味方だと思ってくれてる証だから、心配もしてない」
「ふぅん。そういえば、針妙丸、あんたも不思議なことに全く信用ならないあの天邪鬼に仲間意識を抱いてるわよね」

 水にちびちびと口をつけながら二人の会話を聞いていたら、霊夢がこちらに話を振ってきた。
 私が正邪に対して仲間意識を持っているのが不思議かぁ。恵まれている霊夢には、そう見えてしまうのかもしれない。

「うん、私にとって、正邪は同族以外の初めての味方だったのよ。まあ、本当は騙されてたわけだけど、縁を切ろうっていう気にはならないわ。だって、正邪は私が小人だからと言って蔑んだり見下したりはしなかったのよ」

 正邪は私の力を利用して、幻想郷を支配しようとしていた。そのために私を騙していたわけだけど、小人だからとこちらを見くびってはいなかったように思う。正邪は私に対して平等だったのだ。

「だから、今でも正邪は私の仲間だって思ってる。まあ、向こうがどう思ってるかはわかんないけどね」

 あの日、私が正邪の誘いを断った時点で、私も敵だと思われるようになってしまっているだろう。元々、味方だとも思われていなかったかもしれないけど。

「ひねくれてて素直じゃない正邪のことだから、私がいくら味方だのなんだの言っても無駄なだけだと思うのよね。だからせめて、あいつが殺されないように、私が抑止力にならないとなーって思ってるんだけど」

 幻想郷に受け入れられていると実感した私と、それを絶対に認めないだろう正邪が元の鞘に戻ることはないと思う。彼女が天邪鬼でなければ、あるいはという可能性はあったのかもしれない。でも、そこの部分はどうしようもない。

「それで、私の真似?」

 こころが首を傾げる。頭には、よく分からないとでも言うように不思議そうな表情の面を付けている。

「うん。単純な力で抑えつけても反発心を埋め込むだけだろうし、知力で先回りしても猜疑心を植え付けてしまうだけのような気がする。だから、こころみたいに魅力的になれたら、何か変わるんじゃないかなーって」
「私が魅力的?」

 こころの首が反対側へと傾く。頭の表情は変わっていない。

「うん」
「そう?」
「そう」
「うーん?」

 何度か首が左右に振れたあげく、考え込んでしまった。あれだけの人を集めることができているのに、自覚はないようだ。

「まあ、私のことはいいとして。針妙丸は私の真似なんかしなくても十分魅力的だと思う」
「いやいや、お世辞はいいから」

 こちらを真っ直ぐに見つめてくるこころに対して、手を振りながら否定する。それがないから、こころから学ぼうとしているというのに、それでは、私は何をしているのだということになる。

「ううん、お世辞なんかじゃない。私の動きを真似ようとしてたときの針妙丸の表情は真剣だった。だからこそ、教えられる限りのことを教えようって思った。そういうのは、魅力的だとは言えない?」
「……そう?」

 こころは人が良さそうだから、落ち込まないように気を遣ってくれてるのではないかと思ってしまう。

「私はそう思う。霊夢もそうでしょ?」
「知らないわよ」

 霊夢にばっさりと切り捨てられて、困った表情の面を浮かべてこちらを見る。私にそれを向けられても困る。

「まあ、魅力がどうのってのは知らないけど、決してあんたが無力だとは思わないわ。あいつを追いかけてたとき、あんたは十分な活躍を見せてたわけだしね」

 でも、代わりに霊夢なりの見解を口にした。
 霊夢がそんなことを言うとは微塵も思っていなかったから、思わずその顔を見つめてしまう。

「何よ」
「霊夢って他人のことを慰めたりすることがあるんだなーって」

 こころも同じことを思っていたようで、視界の端で頷いているのが見えた。

「あんたたちは私をなんだと思ってんのよ」
「案外面倒見はいいけど、それをあんまり表には出そうとしない不器用な巫女」
「口では突き放すようなことを言いながらも、行動では受け入れてるような人?」

 前者は私が抱く印象で、後者はこころが抱く印象だ。両者に共通するのは、素直じゃないということ。

「何よ、それは」

 霊夢が顔を逸らす。照れているんだろうか。さっきから、珍しい行動ばかりだ。河童の道具があれば、迷わず一連の言動を残しておきたいと思ってしまうほどだ。

「おー、霊夢が照れてるわ」
「うっさいわよ」

 からかってみたら、照れ隠しに札が飛んできた。避けようとしたけど、疲れ切っていた身体は思うように動いてくれず、札にまとわりつかれて動けなくなってしまう。
 なんで照れ隠しに封魔の札を投げられないといけないのだろうか。

「霊夢、照れ隠しにしても、もっと別の方法があると思うんだけれど」
「下手に叩いたりしたら圧殺しそうじゃない」

 なるほどと納得しかけたけれど、やっぱりおかしい気がする。あんまり突っ込みすぎると、今度は口に札を貼られそうだから、これ以上は何も言わないようにする。でも、言論封殺反対の意志は捨てない。

「霊夢は素直になれば、もっと魅力的になると思う」
「なりたくないから、別にいいわよ」
「そう、残念」

 こころは本当に残念そうだった。気持ちは分からないではないけれど、それは霊夢であって、霊夢でない者のような気がする。それよりも、多少のことで怒ったりしない心の広さを持って欲しい。

「というか、今は針妙丸の話をしてるんであって、私のことなんてどうでもいいでしょうに」
「そう言えばそうだった」

 話題の中心が私の方へと戻ってくる。話題だけじゃなくて、私の状態も戻してくれると嬉しい。今も札は私を束縛したままだ。

「ええっと、霊夢が言いたかったのは、針妙丸はもう十分な力があるから、無理して力を求める必要はないってこと?」
「そういうこと。あのとき、あいつを逃がしたのは、運が悪かっただけ。どっかの馬鹿が口添えもしてたみたいだし」
「……うちの師匠が迷惑をかけてごめんなさい」

 こころが申し訳なさそうな表情の面を付けて頭を下げる。

「あんたじゃなくて、あの狸に直接謝って欲しいわね。だからまあ、あいつのことは置いといて、針妙丸、あんたは諦めずあの天邪鬼に挑み続けてればいいんじゃないかしら。勝っても負けても、あんたの対処法を考えるのに忙しくなって、面倒くさいことを考える余裕もなくなるでしょうし」
「でも、そんなに頻繁に弾幕ごっこができるほど、小槌の魔力に余裕がないわ」

 鬼の魔力に依存しているこの小槌の魔力は無尽蔵ではない。だからこそ、私は普段はこの体の大きさで生活をしているのだ。

「まあ、なんとかなるんじゃない? うちには鬼もよく遊びに来るし」

 投げやりだった。まあ、親身になってくれるよりは、こちらの方が霊夢らしいといえばらしい。

「針妙丸、どうするの?」

 こころが首を傾げてそう聞いてくる。
 どうしようか。霊夢の言うとおり、この神社には伊吹萃香という鬼がよく遊びに来る。彼女なら少しくらいは力添えしてくれそうな気はする。でも、自分でなんとかしろと言われる可能性もないわけではないし――。

「……しばらく、どうすべきか考え直してみることにするわ。でも、だからって考えてばっかりだったら頭おかしくなりそうだから、こころ、余裕のあるときでいいから、薙刀の使い方を教えてちょうだい」

 返事を待っているこころをいつまでも放置するわけにもいかないから、今は取り敢えずそう答えておく。

「任せて。ついでだから、舞い方も教えようか? 格好良さだけが、魅力なわけでもないし」

 そう言うと、こころは立ち上がって舞い始める。確かにこころが舞う姿は魅力的ではあるんだけど、こちらの方がぐっと難易度が高いような気がしてしまうのだ。

「あれもこれもやれるほど器用じゃないから、まずは薙刀の使い方だけで」
「わかった。針妙丸が綺麗に舞えるようになれるのを楽しみにしてる」

 こころの頭に楽しげな表情の面が現れる。なんでそんなに期待できるんだろうか。もしかしたら、仲間が増えるかもしれないと思っているのかもしれない。変に重荷になってしまうかもしれないから、そうなのかもしれないにとどめておく

「綺麗に纏まったみたいだし、私は夕食の準備をしてくるわね」

 霊夢が何気なく立ち上がって、台所へと向かっていく。

「え、ちょっと、霊夢! 札外してよ、札!」

 私のことを気遣ってくれてるのか気遣ってくれていないのかよくわからない霊夢を呼び止めるため、私は声を上げるのだった。





「ったく、またお前かよ! 何度も何度も何度もしつっこいんだよっ!」

 月明かりに照らし出された正邪が悪態を叩きつけてくる。両手に道具を持って、私と対峙している。針と小槌を持つ私とある意味お揃いだ。

「正邪が独りぼっちで寂しがってるだろうって思って、こうやって会いに来てるのよ! 嬉しいでしょう?」

 正邪がそんなことを感じているとは思っていない。一種の挑発のようなものだ。あんまり味気ない言葉をぶつけても、のらりくらりとかわされるだけだろう。

「んなわけあるか、ばーか! 独りだからってなんだってんだ! 勝手に私を哀れんで、悦に入ってんじゃねーよ!」

 予想通りこちらに噛みついてくる。これでいい。私を見てくれていれば、それだけ無意味なことを考えることから遠ざかってくれることだろう。

「ふふん。そんなに強がんなくてもいいわよ。正邪が私を騙したことは不問にしてあげるから、こっちに来なさいな」
「私がいなけりゃ力の使い方さえ知らなかったくせに、随分偉そうになったもんだなぁ! 気に食わねぇ。ぶっ潰してやるよ!」

 正邪がこちらを睨みながら弾を放ってくる。

「今夜は朝が来るまで一緒に踊ってもらうわよ!」

 私は不敵な笑みでそれに応える。
 できる限り、正邪に鬱陶しいと思われるよう意識しながら。



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