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〜〜フランドール・スカーレットの場合〜〜

 今日はなんだか寒い。
 吸血鬼である私は寒さなんてどうってことないはずだ。なのに、今日は地下室の壁から滲み出してくる冷気がいつもよりも多いのか少し肌寒い。

 毛布に包まってみても肌寒さは変わらない。
 すごく寒いってわけじゃないからこのまま寝ても体調を崩したりはしないはず。でも、肌寒さが気になって眠ることが出来ない。

 ベッドの上をごろり、と転がる。……やっぱり、眠気はやってこない。

 そのことが私を酷く苛立たせて近くにある物を壊してやろうかとさえ思ってしまう。

 ……けど、私は手をぎゅっと握ってその衝動を堪える。最近は随分と落ち着いてきたけどいつ私の力が暴走してしまうかもわからない。
 だから、苛々している時は力を使わないようにする。

 けど、だからと言って、このまま何もしなかったら眠ることも出来ない。

 このまま寝ようとしても苛々するだけだから身体を起こしてベッドに座る。そして、ぼんやりと壁の方を眺めてみる。
 そうすると、不思議と心が落ち着いてくる。けど、だんだんと心が内に篭って行ってしまってるような気がして……―――

 その感覚が我慢できなくて私は立ち上がった。裸足に絨毯の感触がくすぐったかった。

 そしてその感触によって私は外側へと引き戻される。いけない。あんまりこの部屋で手持ち無沙汰になってしまうと昔の私に戻りそうになってしまう。

 昔の私には戻りたくない。あんな私はお姉様を悲しませてしまうだけだから。

 独りになると不安になる。いつもなら一人になっただけでそんなことは思わないのに……。何だか肌寒いせいだろうか?

 こん、こん。

 私の不安をかき消す様に不意に扉を叩く音。
 こんな時間に来るのは一人しか考えられない。

「こんばんは、フラン。今日はなんだか寒い夜ね」

 扉の向こう側に立っていたのは微笑みを浮かべるお姉様だった。その微笑みを見ただけで少し泣いてしまいそうになる。

「お姉様……っ!」

 扉の向こう側に誰が立っているのかなんてわかっていたのにその姿を見られたことがとても嬉しくて思わず私はお姉様に抱きついていた。

「おっと、突然、抱き付かれるのは予想してなかったわ」

 お姉様が驚きながらも私の頭を優しく撫でてくれる。その暖かさがもっと欲しくて私はより一層強くお姉様を抱き締める。

「お姉様ぁ……」

 さっきまで昔の自分を取り戻しそうになってて不安になっていたせいか非常に情けない声が出てきてしまった。
 恥ずかしくてお姉様の顔を見られそうにない。だから、お姉様の暖かい胸に顔を押し付ける。

「ふふっ、今日のフランはやけに甘えん坊ね。こんなにも寒い夜だからかしら?」

 お姉様の言葉はからかうようなものだったけど、声音はとっても暖かかった。心の中がぽわり、と暖まる。

 けど、誰も言葉を続けないから地下室は沈黙に包まれてしまう。けど、お姉様が頭を撫でてくれてることが、お姉様の身体から伝わってくる暖かさが、私を安心させてくれる。

「……ねえ、お姉様。何だか寒くて、寝られないの」

 ようやく、私は落ち着いてきて顔を上げることが出来た。けど、口から出てきたのはとっても弱々しい言葉。お姉様の前ではどうしても弱くなってしまう私。

「そう。私も、寒さに人肌が恋しくなってここまで来てしまったのよ」
「ぁ……」

 お姉様が私を抱き締めてくれた。前だけじゃなくて身体全体が暖かさに包まれる。

「そっか、お姉様も寒かったんだね。……じゃあ、私の体温も分けてあげる」

 お姉様を抱き締めてた腕に痛くならない程度にぎゅぅ、っと力を込める。もっともっとお姉様の体温が欲しくて。もっともっと私の体温が伝わって欲しくて。

 静かに私たちは抱き合う。
 ゆっくりゆっくりとお姉様の体温が私の中を巡っていく。幸せで満たされていく。
 私の体温はお姉様に届いてるだろうか? ちゃんと届いててお姉様も幸せになってくれればいいなっ。

 けど、不意にお姉様が腕を放してしまう。

「ぁっ……」

 私は思わず小さく声を漏らしてしまう。けど、お姉様はそんな私を気にした様子もなく暖かな微笑みを見せてくれる。
 だって―――

「さてと、良い感じに身体も温まったことだし一緒に寝ましょうか? フラン」
「……うんっ」

 ―――もっと、大きな幸せが待っていたのだから!



〜〜古明地 こいしの場合〜〜

 今日は何だか寒い。
 ここは灼熱地獄のお陰で寒くなることはないんだけど、時々火力が弱まって地霊殿の中の温度が下がることがあるのだ。

 こういう時は大体一人で寝ることは出来ない。
 だって寒いのが気になるから。

 だから、一緒に寝てくれるペットを探す。猫やら犬やら狐やら狸やら。ここには抱き締めて温かいペットはいくらでもいる。

 というわけで、私は無意識に身を委ねて今日の湯たんぽを探しに行くのだった。



 ―――意識が戻ってくる。
 けど、もう意識も落ちかけてて目は閉じてしまっていた。

 そんな状態のまま私は今の自分の状況を確認する。

 私は何かに抱きついてるみたいだった。大きさは私と同じかちょっと大きいかくらい。温かい。
 ここはベッドの上みたいだけど、私はわざわざ自分の部屋まで戻ってきたんだろうか。珍しい。ここまで大きいペットを選んだんならその場で寝ることの方が多いのに。

 ま、いいかー。

 それよりも、私は何のペットに抱きついてるんだろうか。
 もう本当に意識も落ちかけていて目を開けるのも面倒だから閉じたまま確認してみる。

 毛は生えてないみたい。……そんなペットいただろうか、と思ったけど深く考えることは出来ない。

 頬擦りをしてみるとすべすべの感触。そして、鼻腔をくすぐる甘い香り。
 何だかとっても安心できる。今まで一緒に寝たペットの中では一番なんじゃないだろうか。

 気分が良くなって、いつものように適当な場所に口付けをしてみようとして……

「ちょっと……っ、こいしっ!」

 焦ったようなお姉ちゃんの声が聞こえてきた。しかもかなりの間近で。

 その声に意識は覚醒してしまった。
 目を開けてみる。すると、目の前にはお姉ちゃんの顔があった。近すぎて一瞬なんだかわからなかった。

「なんでお姉ちゃんがここに?」

 とりあえず顔を離して首を傾げて聞いてみる。いや、わかってるんだけどね。こう聞くのがお約束かなー、って思って。

「それはこっちの台詞よ。ノックもせずに入ってきたかと思えば突然ベッドに入ってきて抱き付いたり、頬擦りをしてきたり」
「ついでに、キスもしようとしたよね。なんでそこで止めたの?」

 お姉ちゃんの顔がちょっと赤くなる。
 恥ずかしかったのかな? それにしても、実の妹からの口付けを拒むとは。私たちの絆はその程度のものだったのだろうか。

「……さすがに、実の妹にファーストキスを奪われるのを享受できるほど特殊な性格はしてないわ」

 お姉ちゃんってまだだったんだ。
 ファーストキスかぁ。そういえば私も口にしたことはない。猫や犬の鼻にはよくやるけどね。

 ……んんっ? 冷静に考えると私ってとんでもないことをしようとしてた?

「えっと? お姉ちゃん?」
「……何かしら?」

 間近にいる我が姉に問い掛ける。微妙におかしくなってるのは気のせい。

「私はどこに口付けをしようとしてたの?」
「ここよ」

 簡潔に答えながらお姉ちゃんが指差したのは柔らかそうな唇。
 その意味を理解するのに数秒。

「……おおぅ」

 危うく姉妹としての一線を越える所だった。危ない危ない。

 そして、ぷにぷに。

「……こいし、何で私の唇を触ってるのよ」
「あっと、ごめん。触り心地が良さそうだったからつい」

 手を引っ込める。もう一度触ってみたいと思えるくらい触り心地が良かった。

「それで、貴女はいつになったら私の布団から出て行ってくれるのかしら?」
「ん〜、明日の朝になったら?」

 今更お姉ちゃんから離れるつもりはない。ペット達にはない独特な温かさが私を落ち着かせてくれるって事に気付いたから。

「出て行きなさい、って言っても無駄なんでしょうね」
「当然。お姉ちゃんはたった一人の妹を凍え死なせるの?」

 そう言いながら思いっきり抱きついてみる。ペット達とはまた違った抱き心地だけど、うん、やっぱり落ち着ける。

「はあ、そんなに寒くはないでしょう。……でもまあ、確かに今日は少しだけ寒いわね。いいわよ、一緒に寝ましょ」

 呆れたように言いながらも一緒に寝ることを許可してくれた。

「やった! ありがと、お姉ちゃん。これで凍え死なずにすむよ」
「私は湯たんぽか何かかしら? 貴女が私のことをそう使うのなら私も有効活用させてもらうわ」

 その言葉と同時に私の身体がふわり、と優しく包まれる。

 わわっ。お姉ちゃんに抱き締められた。
 さっきまでは自分から逃げられたけど、これで逃げられなくなってしまった。そんな状態にちょっとどきどき。

 ……でも、まあ、お姉ちゃんに抱き締められてたら私がいつの間にかここからいなくなるって事もない。
 朝起きたら隣にお姉ちゃんがいるのってどんな感じなんだろうか。今みたいにすごく安心できるんだろうか。

「……おやすみ、こいし」
「うん、おやすみ、お姉ちゃん」

 なんだか今日は良い夢が見られそうな気がした。


Fin



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