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「ゆーきっ」

 満月に照らされる夜の空。私の吐いた息が一時視界を白く塗りつぶす。
 だけど、それが晴れれば真っ白な雪が星の代わりにはらはらと降ってくるのが目に入る。無数に瞬く星よりも綺麗で、そして幻想的だと思える。
 冬は寒いばっかりだけど、雪が降ってくると無性に嬉しくなってくるのだ。少し飛び跳ねたい。

「ねえ、寒くない?」

 人気のない里の中を歩きながら、私の半身である傘へと話しかける。
 この子のおかげで私に雪が積もることはない。けど、直接雪を被っているこの子はさぞかし寒いはずだ。
 半身だけど、感覚の共有はしていない。だから、この子がどんなことを感じているのかはわからない。まあ、もしかしたらこの子に感覚なんていうものはもともとないのかもしれない。それか、この子が強すぎるだけなのか。
 なんにしろ、振り回してて痛いと言われたことはないし、折れたことも一度もない。健気に私の身を守っててくれていた。

「そっか。でも、無理はしないでね。あなたは私でもあるんだから」

 中棒を優しく撫でてあげる。いくら頑丈とはいっても、無理はさせたくなかった。
 撫でてあげていると喜んでくれたのが伝わってきたから、私も嬉しくなる。冷たい感覚しか返ってきてないのに、温かさを感じたような気がした。

「雪、積もってくれるといいねー」

 誰も歩いてない人里のど真ん中で半身を肩に乗せて空を仰ぎ見る。そのままくるくると回る。
 本当はこんなことをしてないで、誰かを驚かしに行きたい。寝てる人なら簡単に驚かせられる。だけど、そんなことをすると後で慧音にぶっ飛ばされる。だから一回やったきりやっていない。だって痛いし怖いもん。

 だから、代わりにくるくると回る。
 雪に胸を躍らせてくるくると回る。
 足を使ってくるくると世界を回す。
 無数の雪が、くるくると渦を描く。

 そんなことをしてたら、私の半身から警告が飛んできた。
 なんだなんだと思いながら回転をやめる。だけど世界はまだ回ってる。一度回るとなかなか止まらない。

 ようやく止まる。だけど、身体がふらふらーとよろめく。ちょっと面白い。
 その感覚を楽しんでたら背中を強打した。不意打ちだった。

 予想外の痛みに地に伏して悶絶する私。じんじんとした痛みが私を襲う。
 半身を抱きしめて痛みに耐えようとする。半身が何かにぶつかったのを感じ取ってとっさに閉じられるあたり慣れたものだ。どうせなら私自身の身も守れるようになると嬉しいんだけど!

 しばらく半身に呆れられつつ心配されながら地面の上をごろごろと転がる。ちっちゃい石が時々刺さって地味に痛いけどそれどころじゃない。背中の痛みの方が重大だ。
 そうして右に左にと身体を転がしていると、なんとか痛みは収まってきた。

「だ、だいじょーぶ。だいじょーぶ」

 頑張って立ち上がる。声はひきつってるし、目の端には涙が浮かんでいるけど大丈夫なのだ。
 けど、半身は私のことを心配している。
 大丈夫ったら、大丈夫なのっ!

 とにもかくにも私の身に何が起きたのか確かめるため、振り返ってみる。そこには一軒の家があった。真っ白な壁が悠然とそびえ立っている。あそこに私の背中はぶつかったようだ。
 悶絶してる間に移動しただろうから、どの辺りに背中をぶつけたのかはわからない。
 こんな時には、半身に聞いてみる。

「ねえ、私どこにぶつかったの?」

 ふむ、どうやら私は家の角に背中をぶつけたらしい。それならこの痛みも納得だ。

「おぼえてろよー。うーらーめーしーやー」

 未だに残る背中の痛みを恨みに変えて、その一軒家にぶつけてやる。とはいえ、相手から反応が返ってくるわけでもないから虚しい。だからすぐにやめた。

「ん? 私の不注意が悪い? もー、うるさいなー」

 この子は私に対して少々うるさい気がする。私の半身のはずなのに。
 私がそんなことを気にしてるのを知ってか知らずか、半身は再び注意をしてくる。もうこれ以上はしゃぐなと。

「まあ、また同じことはしたくないし大人しくしてるよ」

 うるさいとはいっても、私のことを気にしての発言だ。だから無下にできないしするつもりもない。

「積もるまでどこかに隠れてようか」

 そう言って私は背中をさすりながら雪の降る人里の中を歩き始める。どこかに雪をしのげるいい場所はないかと探しながら。





 雪が積もった!

 私が履いてるのは下駄だから、雪の冷たさが直接に足に伝わってくる。足首まではすっかり冷えきってしまっている。
 だけど、そんなことが気にならないくらいに気分が高揚してくる。笑みが口の端から勝手に漏れてくる。

 ちなみに、私は牛舎の中に入れさせてもらっていた。臭いは気になるけど、温かさは文句なしだった。熱を出してるのが私以外にもいっぱいいるわけだからね。
 みんな大人しく私を受け入れてくれたよ。

 まあ、そんなことはどうだっていい。

 今、私はある家の屋根の上から、雪を前にしてはしゃいでいる子供たちを観察している。私には気付かず楽しんでるようだ。
 けど、そうして楽しんでいられるのはいつまでかな?
 そんなことを思うと同時に、暗い笑みが浮かんでくる。
 ふっふっふー、これより私は悪となるのだ! 私のお腹のために!

 足下の雪を拾い上げて適当に丸める。手が冷たくなるけどこの際は我慢だ。この苦しみの向こう側には極上の幸せが待っている。

 下で遊んでいる子供たちのうちの何人かの中から一人狙いを定める。難しく考える必要はない。要は一番近い子を狙えばいいのだ。
 だから、一番近くでしゃがみ込んでいる長い黒髪の女の子に狙いを定める。

 そなたに恨みはない!
 私の前にいたから標的となったのだ!
 運が悪かったと思って諦めろ!

 ぬえの驚かすときは声を出すなという言葉を守って、代わりに心の中で叫びながら飛び降りる。
 女の子との距離はすぐに詰まる。さあ、後は首元へと手を伸ばすだけだ! と思ったら、

「小傘ちゃん覚悟っ!」
「うわっ!」

 突然横の方から冷たい塊が飛んできて顔に当たった。驚いた私はそのままバランスを崩して雪の上に尻餅をついてしまう。半身だけは死守した。

 どうやら、雪玉をぶつけられたみたいだ。
 痛くはないけど冷たい……。

「へっへっへー。小傘ちゃんは相変わらず隠れるのが下手だねぇ」

 頬についた雪を払いのけながら顔を上げると、まさに悪ガキといった感じの表情を浮かべる黒髪の短髪の女の子がいた。いっつも、私の邪魔をする子だ。

「よくもやったな! くらえっ!」

 幸いにして私の掴んでいた雪玉はまだまだ健在だった。だから、渾身の力を込めて投げつけてやる。

「あったんないよー」
「ぐぬぬ……」

 私が全力で投げた雪玉は避けられてしまった。代わりに後ろの方で私たちの方を見ていた男の子に当たる。
 そのことに驚いてくれたから、お腹は膨れた。だけど、お腹の虫は収まらない。なんとか仕返しは出来ないものかと考える。

 で、結局思い浮かんだのは、雪玉を投げつけてやる。さっきと同じだ。でも、このまま何もやらないわけにもいかない。
 だから、しゃがんで雪玉を作ろうとした。

「わぷっ」

 けど、それよりも早く雪玉が顔にぶつけられる。
 手で払いのけてる時間ももったいなくて、ぷるぷると頭を降って顔についた雪を飛ばす。

「小傘ちゃん、隙だらけだよ」
「って、そっちは二人じゃないかーっ!」

 顔を上げてみると、私が最初に狙っていた女の子がせっせと雪玉を作っていた。悪ガキ娘はすでに次の雪玉を片手で弄んでいる。

「私の妹を狙ったんだ! 問答無用!」
「わわっ! ごめんっ!」

 慌てて謝りを入れながら半身を盾にする。手に衝撃が走るけど雪の冷たさは感じない。半身がちゃんと受け止めてくれた。

「へへー、ありがとう」

 お礼を言うけど、まだまだ安心は出来ない。半身をどけてしまえばすぐにでも狙い打ちにされてしまうのだ。
 かといって、逃げるなんていう選択肢はない。このまま負けているつもりなんて全くない。
 顔に二回も雪玉をぶつけられて何もしないなんて悔しいじゃないか。

 半身を盾にしたまま、しゃがみ込んで作れる限りの雪玉を作る。向こうもこっちを待っているようで、上から雪玉が飛んでくることもない。いつまで待ってくれるかわからないから出来るだけ急がないと。
 手がかじかんで来たけど、そんなことは気にしていられない。どうせここで負けてしまえば何をされるのか分からないのだ。ならば、全力を出すしかない!

 そうして、十数個ほどの雪玉の用意が出来た。どうせ持ち運べないんだしこれくらいあれば十分だろう。

「さあ、ここから反撃の狼煙をあげるよ!」

 半身をくるりと回して肩に乗せる。半身についていた雪がとさりと落ちる。
 そして、半身を持っていない方の手で雪玉を構える。

「ほっほう、小傘ちゃんが私たちに勝つ、と」
「おや?」

 顔を上げてみると、広場に集まっていたあのせっせと雪玉を作っていた妹ちゃん以外の子供たち全員が雪玉を手に持っていた。みんな、こっちを向いてる。
 特にさっき私の投げた雪玉がぶつかった男の子は、本気の目をしていた。今にも雪玉を全力で投げつけてきそうだ。

「さあ、あのへっぽこ妖怪に私たちの恐ろしさを見せてやれ!」

 悪ガキ娘の号令とともに、一斉に雪玉が飛んできた。弾幕ごっこをしてるときと同じくらいの迫力で雪玉が迫ってくる。

「わー!」

 とりあえず手にしていた雪玉を適当にぶん投げて、その場から逃げ出す。お腹がふくれたのを感じたけど、今はそんなことを気にしてる暇はない。
 全力で走って、家の角を曲がる。半身のおかげで背中は守れたけど、足の辺りには容赦なく雪玉がぶつかった。

「冷たーい! 寒ーい!」

 溶けた雪がふくらはぎを伝って下駄の辺りまで届いてる。そのおかげで、風が吹く度に非常に寒い。
 半身に足袋を履いたらどうかと薦められるけど、そんなものがあったらとっくに履いてるよ!
 うぅ……。簡単に物資を手に入れられないのが底辺妖怪の悲しさ。
 というか、なんで今そんなものを薦めてくるの……。

 いや、今はそんなことよりも!

「くそう……、あいつらめぇ……」

 私が非力だからって調子に乗って。
 確かに、妖怪らしい力なんてほとんどないけど無力じゃないんだ!

 とにもかくにも、今は恨み節をぶつけている暇なんてない。行動あるのみ。

 壁の向こう側、あの悪ガキ娘が子供たちに指示を出して私を挟み撃ちにしようとしているのが聞こえてくる。
 このままここにいたら、無数の雪玉をぶつけられて雪だるまにされてしまう。
 私は唐笠だ。だるまになるつもりなんて一切ない。あんな丸々とした姿は認められない。

 空に飛んで、屋根の上へと逃げる。この場で私だけが出来ることだ。非力な私の優位な点。
 地面と同じように雪の積もった屋根に足を着ける。これで、直近の危機は去った。
 慎重に下を覗いてみると、子供たちが私のいた場所へと向かって行っているのが見える。
 こうして上から見ているとなかなかに滑稽だ。ここから雪玉を投げてやれば相当に驚いてくれるはずだ。

 そう思うと、楽しくなってきて笑みが浮かんでくる。さぞかし、さですてっくな表情となっているはずだ。
 けど、私の考えを読んだかのように半身が微笑ましいとか言ってきた。この子は見る目がない。

「楽しそうだねぇ。何やってんの?」
「あいつらを脅かすための雪玉制作を――、ってなんでここにっ!」

 反射的に答えながら振り返ってみると、そこには悪ガキ娘がいた。驚いて思わずそのまま前に飛びそうになるけど、なんとか踏みとどまってそのまま立ち上がる。屋根の上から飛び降りるわけにはいかない。とっさに飛べるかも分からないし。

「もしかして飛べるのっ?!」

 向かい合って、今日一番の驚きを声の中に込めてそう言った。
 そして、よく見てみると彼女の後ろには妹ちゃんもいた。実は妖怪姉妹っ?

 そんな私の驚きを気にした様子もなく妹ちゃんは、やっぱりせっせと雪玉を作っている。あれで楽しいんだろうかと思ってしまう。
 いやいや、攻撃されたいわけじゃない。

「知らないの? ここ、あっちの方に荷物積まれてるから登ろうと思えば簡単に登れるんだよ?」

 そう言って、悪ガキ娘が横の方を指さす。私が横を向いてる間に雪玉でも投げつけるつもりなんじゃないだろうかと思ったけど、妹ちゃんとの距離は遠いし大丈夫なはずだ。手に何かを持っているようにも見えないし。
 とはいえ、信じることなんて出来ないから、じとーっと悪ガキ娘の方を見る。

「む。私のこと信頼してないの?」
「うん、だって今までだって何度も似たようなことをされたからね」

 池の中に何か落ちてると言われて覗き込んでみて突き落とされたり、空に何か飛んでいると言われて見上げてみればくすぐられたり。
 というわけで、何か悪さをしやしないかとじーっと見つめる。

「ひっどいなぁ。少しくらい信頼してくれてもいいのに」

 全くひどいと思っていないような声でそう言ったかと思うと、不意に口の端がつり上がる。嫌な予感を覚えるけど、何が嫌なのかさっぱりだから首を傾げることしかできない。

「――私の妹を信頼してるんだからさ」

 その直後、私の耳元を雪玉がかすった。風を切る音が聞こえた直後、半身に雪玉がぶつかる。
 そんなに速くはなかったけど、完全に私の意識外から飛んできたから肝が冷えた。たらー、と冷や汗が流れる。

「せっかく隙を作っててあげたんだからちゃんと当ててよ」

 私を無視して悪ガキ娘が妹ちゃん、雪玉が飛んできた方へと振り返る。その声には不満が込められている。

「もー、私はお姉ちゃんみたいに投げるのは上手くないんだよ」
「なっ! 裏切り者っ?!」

 あの子はいっつも大人しく悪ガキ娘の後ろに付いてきてるだけだった。まあ悪ガキ娘に手を貸したりはしてたんだけど、決して直接手を出してくるようなことはなかった。
 なのに!
 あの子は直接手を出してきた!
 これはもう驚天動地の出来事である。

「私は一度として小傘ちゃんの仲間だと思ってたことはないんだけどねぇ。まあ、こうして直接手出ししたのは初めてだけど」

 そう言いながら、妹ちゃんはしゃがみ込んで足下の雪玉を拾い上げる。なんだか、真っ黒なオーラが見え隠れしているような気がしないでもない。

「真っ先に私に手を出したんだから、制裁を受けてもらわないといけないよね」

 にっこりとした笑顔を浮かべる。けど、微笑ましいと言うよりは何やらヤバげな雰囲気の何かが溢れてきている。私の出す、さですてっくなものとは比べものにならない。
 半身ともどもそれを感じ取って後ずさりそうになっている。後ずさらないのは、これ以上後ろがないことが分かってるから。

「ま、というわけだからさ。小傘ちゃんはここで大人しく成敗されちゃって」

 私が妹ちゃんに気を取られている間に悪ガキ娘の方も手に雪玉を持っていた。
 万事休す!

 だけどっ!
 それでも、足掻いてみせるのがこの多々良 小傘!
 策がないなら、やぶれかぶれで何でもやってやれ!

 そう覚悟を決めたとたん、悪ガキ娘が雪玉を投げてくる。
 私は身体をひねってそれをかわす。その際、邪魔になるから半身は畳んでおく。

 かなり距離が近かったから悪ガキ娘は絶対に当たると思っていたのか、私が避けたことに驚いてるみたいだ。
 けど、そのことに関して愉悦感に浸っている暇はない。比較的冷静な妹ちゃんの方が、悪ガキ娘に当たってしまうかもしれないにも関わらず雪玉を投げてくる。
 狙うのが苦手だという割には、結構的確な位置を狙ってくる。

 だけど、私だって弾幕ごっこを嗜む身! 不意打ちじゃなければ、割とどうとでも出来るはずだ!

 今度は避けない。避けてばっかりいても私の気分はすっきりしないからだ。
 避けるかわりに、雪玉が飛んでくるのにあわせて半身を振り上げる。速すぎず遅すぎず。けど、それなりの威力を持たせて!

「わっ!」

 狙い通り雪玉に傘が命中して、雪玉が割れてあたりに雪がちらばる。悪ガキ娘がそれに驚いてくれる。
 今度はお腹がふくれると同時に満足感も得られる。ここでとりあえず一矢報いてやった!

「どうだ! 参ったか!」

 気分が良くって、その場でふんぞり返る。
 けど、半身が警告を飛ばしてくる。妹ちゃんが私の勇姿に一切の動揺を見せずもう一度雪玉を投げてきていた。
 残念なことに私は不意打ちには滅法弱いわけで、

「わぷっ」

 避けることができず、顔に雪玉がぶつかった。そのままよろけて屋根の上から落ちそうになってしまう。
 けど、浮かび上がって無理矢理体勢を立て戻す。今下に落ちたら、痛い以上にしゃれにならないことになる気がする。子供って時々何するかわかんないから。

「傘で打ち返したりするからすごいって一瞬思っちゃたけど、やっぱり小傘ちゃんは小傘ちゃんだね。とっても間抜け」

 妹ちゃんがくすくすと笑ってる。その挑発に乗りかかってしまいそうになる。
 けど、私はいつの間にか妹ちゃんの傍に移動していた悪ガキ娘の方に意識を向けていた。だから、今度は不意打ちを狙ったらしい雪玉を避けることができた。

「へっへーん。何度も同じ手には引っかからないよーだ」

 べー、と舌を出す。冷たく乾いた外気が心地いい。

「お姉ちゃんが外したから小傘ちゃんが調子に乗り始めた」
「いやー、ここまでやるとは予想外だったね」

 妹ちゃんに毒づかれてるけど気にしてるような様子はない。そもそも、私に避けられたことを悔しがってさえもいない。
 そのことがとっても悔しい。

「うん、しょうがない」

 不意に悪ガキ娘が口の横に手を当てる。何をされてもいいように身構えておく。本当に何にでも対処できるわけでもないけど。

「みんな! 私たちに当ててもいいからやっちゃって!」

 悪ガキ娘が大声でそう言うと、下の方からわかった! やら、うん! やら同意の声が聞こえてくる。正直言っていい予感はしない。かといって逃げ場もない。

 そして、悪ガキ娘が何を指示したのかわかった。
 不意に雪玉がいくつも飛んできた。下から声を聞いてたのか、雪玉はそれほど見当違いな場所へは飛んでいない。何個か私の頭にぶつかる。
 それだけなら半身で防ぐことが出来る。だから、急いで半身を開いて自らの身を守る。
 だけど、屋根の上にいるのは私だけじゃない。

「さあ、これで小傘ちゃんは傘を使って防げなくなったわけだ」
「あーあ、せめて私だけでも無事に終わらせたかったんだけどなぁ。この恨みは小傘ちゃんにぶつけちゃおう」

 姉妹が同時に雪玉を構える。時々雪玉がぶつかってるけど大して気にしてないみたいだ。まあ、あっちに一個が落ちる間にこっちに十個ぐらい落ちてきているような状況だけど。

「覚悟!」

 悪ガキ娘が雪玉を放ってくる……と思ったら妹ちゃんが全力で投げてきた!
 なんという高度な不意打ち!

「とわっ!」

 焦りを感じながらも横に飛んで何とか避けた!

「ぬわ!」

 はずなのに、雪玉が顔にぶつかった!
 悪ガキ娘の方が、私の飛ぶ位置を予測していたようだ。恐ろしいくらいに連携がいい。

「二人とも卑怯だ!」

 というか、顔を狙いすぎだ! 手よりも顔の方がしもやけになるじゃないか!
 そこまで言いたかったけど、そんな暇をくれるような二人じゃなかった。

「問答無用!」

 姉妹が同時に雪玉を構える。悪ガキ娘は私を、妹ちゃんは私の右を狙っている。だから、迷わず左に飛んだ。

「うわっ!」

 けど、着地点に思ってた以上に雪玉が積み重なっていたみたいで足が取られてバランスを崩してしまう。立て直す余裕もなく、そのまま屋根の上に倒れ込んでしまう。
 雪のおかげで痛くはなかった。けど、とっても冷たい。

「あう〜……」

 半身が私の手から放れる。そうなってしまえば、私を守るものがなくなって雪玉が容赦なく私の上へと降り注いでくる。
 このままだと埋まってしまうんじゃないだろうかと思うけど、何となく立ち上がる気にならない。

「あっはっはー、私たちの大勝利だね」
「小傘ちゃんはそうやって負けてる姿の方がお似合いだと思うよ」

 雪玉を浴びながらも、姉妹が勝者の笑みを浮かべて私を見下ろしてくる。屈辱以外の何物でもない。
 というか、今後は妹ちゃんに手を出さないようにしよう。あの子は恐ろしすぎる。
 悪ガキ娘と違って観察眼がある上にそれをすぐに活用するだけの頭の回転の速さもある。割とすぐにいっぱいいっぱいになる私の手に余る相手だ。

「あ、お姉ちゃん。そろそろみんなを止めないとまずいよ」
「え? なんで?」

 妹ちゃんの言葉に悪ガキ娘が首を傾げる。私も止めてくれるのは嬉しいけど、疑問に思って首を傾げる。

「はあ……。なんでじゃないよ。たぶん、このままにしてるとふとした拍子に屋根の上の雪が一気に下に落ちるよ」
「確かにそれはまずい」

 私も妹ちゃんの言葉で何がまずいのか理解できた。屋根の上に倒れ伏しているこの状態でそんなことが起これば私も一緒に下へ落ちてしまう。そして、運が悪ければ埋まってしまうかもしれない。
 寒さ以外の要因で身体が震えた気がした。

「おーい! みんな! ストップストップ!」

 悪ガキ娘が下の子供たちに向かってそう言うと、ぴたりと雪玉が止まった。なんでこんなに統率ができてるんだろうか。声に不思議な力でもこめられてるんだろうか。

 まあ、なんでもいいかと思いながら、私は今の間に起きあがっておく。最悪の事態に巻き込まれたくない。

 立ち上がってみると全身どこも溶けた雪で濡れてて、もの凄く寒い。人間みたいに風邪を引くことはないけど、できることならすぐにでも乾かしたい。

「あっはっは! 小傘ちゃん雪まみれだ!」
「うん、これだけ雪まみれになってくれれば満足かな」

 二人が立ち上がった私の姿を見て愉快そうに笑う。でも、人のことは言えない気がする。

「二人もすっかり雪まみれだね」

 時々雪玉をぶつけられていた二人も上から下まで雪を被ったような状態になっている。まあ、さすがに私ほどひどい状態ではないけど。

「そう言われると悔しくなってきた。お姉ちゃん、もうちょっとぶつけてあげようか」
「だね」

 妹ちゃんが適当に雪を拾い上げると、悪ガキ娘の方も雪を拾い上げる。
 私もなんかもう色々と吹っ切れたから同じようにして雪を拾い上げる。今更雪をどれだけ浴びようと関係ない。かといって、受け身の体勢でいるつもりもない。

「ていや!」
「覚悟!」
「くらえ!」

 そして、三人同時に雪を投げつけた。丸めて固めた雪じゃないから、ふわりと頭や肩の上に積もる。
 当然、私が一番雪を被る量が多かった。

 一回程度で終わるはずもなく、何度も何度も雪を投げあう。なんだか楽しくなってきてお互いに笑い声をあげる。

 いつのまにか下の子供たちも勝手に遊び始めていて、はしゃぐような声が聞こえてくる。だけど、そこに時々私たちの投げた雪の塊が落ちて驚きの声があがる。

 そうして私は少しずつお腹を満たしながら、今という時間を楽しむ。
 これが最近私の見つけた食事方法だ!


Fin



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