恋をした、恋をした。胸が苦しくなるほどの恋をした。

 喧騒が楽しくて、零れる笑顔に嬉しくなって、笑い合えることに喜んで、気付けば恋をしていた。

 それから、髪を撫でる風が愛しくて、春まで会えない桜花が恋しくて、散り行く紅葉が切なくて……。
 私は私の手に負えない感情に振り回される。意識も一緒に振り回される。

 あまりにも愛しくて、恋しくて、切なくて、苦しくて……自らの心臓を止めてやろうかとさえ思ってしまう。

 そうしてしまえば、私は死んでしまう。死んでしまえば、意識も無意識もなくなって、ただの無となってしまう。
 そうすれば、この胸を締め付けるほどの苦しさから逃れられる。……楽に、なれる。

 でも、でも、そうしようとすれば、恋をしたものが頭に思い浮かんできて、私を殺そうとした手が、勝手に止まってしまう。気が付けば、涙だって流れている。

 失うのが嫌だから、失うのが怖いから、失うのは悲しいから、私の無意識が意識を抑え込んでしまう。そして、無意識の悲しみと、意識の苦しみがあわさって、私は涙を零すのだ。

 そんなときは、外に出て、風に当たるのだ。

 涙を拭うように流れていく風が愛しすぎて、また、涙を流してしまう。

 ふと聞こえてくる喧騒に胸が弾んで涙も引っ込んでしまう。

 そして、ふと、目に映った、空の青さに見惚れて、また、恋をする。

 苦しくて、苦しくて、でも、どこか心地よさがあって逃れられない。この身を委ねてしまいたいけど、私が恋したものは、私に恋されてることに気付きやしない。

 しょうがない、しょうがない。だって、そういう存在なのだから。私の無意識でもどうしようもない存在なのだ。

 誰もが恋して、誰もが求める、そんな、存在なのだから。



 私、古明地こいしは幻想郷に恋をしました。



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