満月の綺麗な夜、紅魔館のお庭で猫を拾いました。
真っ黒な毛皮の正真正銘の黒猫です。
さてさて、目が合った瞬間、反射的に抱き上げてしまいましたが、どうしましょうか。
そんな思いを込めて、名も知らぬ黒猫を見下ろしてみますが、金色の瞳で見返してくるだけです。
大人しいですね、この子。
思わず、ぎゅーっと抱き締めてしまいます。に゛ゃー、と抗議の声を上げたのですぐにやめてあげましたが。
そうすると、すぐに大人しくなってくれました。どんな事をされても逃げ出さない、というその心持ちが素敵すぎます。
私に惚れちゃいましたか? 可愛い方なら誰でも大歓迎ですよ。
そんな思いを込めて、なでなで、と頭に触れてみましたが、反応はありませんでした。残念ながら、私にテレパシーの能力はないのです。
かといって、言葉にしたところで伝わるかどうかも怪しいですが。
それにしても、何処から入ってきたんでしょうかねぇ。
美鈴さんなら通してしまうかもしれませんし、塀もどこかの木から伝われば乗り越えられるかもしれません。それか、塀のどこかに壊れた場所でもあったのかもしれません。
いくつかの侵入経路が浮かんできます。けど、特定をするつもりはありません。空を飛べれば入りたい放題ですから、この館。
それに、この子がいたところで、害なんてないでしょうしー。
気晴らしの散歩の途中でこの子を見つけたことは何かの運命。存分に気晴らしに付き合ってもらいましょう。主にぎゅーっとしたり、なでなでしたりして。
「あ、こあ。何してるの?」
不意に、背後から綺麗に澄んだ声が聞こえてきました。
おやおや、これはまたまたちょうど良いところに。
「休憩の時間になったので、お散歩をして気晴らしをしてるんですよ。フランドール様もお散歩ですか?」
振り返ると、そこには予想通りの人物が立っていました。
紅い瞳が私の方を見つめています。
「うん。たまには、月の光でも浴びてみようかな、って」
柔らかい微笑みを浮かべます。月の光に照らされるその表情はいつもよりも神秘的で、魅力的に見えました。
黒猫を抱いていなければ、抱き締めてしまっていたところです。
本当、レミリア様といい、月の下だととても絵になる方ですね。
「ねえ、こあ、その子どうしたの?」
けれど、微笑みはすぐに黒猫への興味へと取って代わります。こちらへと近づいてきながら、黒猫へと視線を向けています。
そういえば、フランドール様は無類の猫好きでしたね。あまり外に出ることがないので、触る機会がほとんどないそうですが。
「さっきそこで拾ったんですよ」
黒猫の頭を撫でてあげながら、そう答えます。
おや? 黒猫の方も何やらフランドール様に興味があるようです。じっ、とフランドール様を見つめています。
これは、お二方を引き合わせて差し上げるしかないようですね。
「抱いてみますか?」
黒猫をフランドール様へと差し出してみます。
「……いいのかな?」
「さあ、私にはわかりませんねー。でも、大丈夫だと思いますよ。私が突然抱き上げても暴れたりもしませんでしたし。というわけで、さあさあどうぞ」
ずい、と一歩近寄ります。
それに対して、フランドール様はゆっくりと黒猫の方へと両手を伸ばしていきます。微妙に腰が引けています。
けれど、腕が止まることはありません。そろり、そろり、と距離が詰められていきます。
なんだか、見ているこっちまで緊張してくるような光景です。けど、それだけでなく、頑張れ!、と応援したくもなってきます。
そして、黒猫を無事抱き締めた暁には、後ろから抱き締めてその金髪をわしゃわしゃとしてあげたいのです。
本当は、正面から抱き締めたいのですが、黒猫を潰しちゃうわけにもいきませんしねぇ。
「……あの、こあ?」
「あー、はいはい、なんでしょうか」
突然、フランドール様に声をかけられました。意識が少し内に籠もっていたので少々おざなりです。
いけませんね、こんなことでは。
おや?
「なんでフランドール様は私から距離を取ってるんでしょうか?」
先ほどまでは、私が腕を伸ばしたまま一歩進めばフランドール様に触れられるくらいの距離だったはずですが、今は妙に開いてしまっています。
「こあの顔がちょっと怖くなってたから」
あらー、欲望が顔に出ちゃってましたかー。
フランドール様、臆病なので警戒心も強いんですよね。だから、嗜虐心も刺激されるわけですが、あんまりそれを表に出しすぎてしまうと、逃げられてしまいます。
魔法に関しては、パチュリー様に匹敵するくらいですからねぇ。私程度では止められないのです。
まあそもそも力でも勝てないのですが。だから私は代わりに口を動かすのです。
「あ、すいません。ちょーっと腕が辛いんです」
一応嘘ではないです。貧弱な小悪魔に筋力なんてものを期待しては駄目なのですよ。
でも、いっつも本を持ち運んでるので、不本意ながらも肩と背中の力だけは自信があるんですよねぇ。
私はパワーキャラなんて目指してませのに。私は清楚な淑女キャラでいたいんですよ。
「あ、ごめんなさいっ」
フランドール様が勢いよく頭を下げます。それにあわせて、紅いリボンに結わえられたサイドテールも揺れます。
けど、すぐに顔を上げて、少々おっかなびっくりながらも黒猫へと手を伸ばしました。
腕が辛い、と言った私の為なのでしょう。フランドール様は優しいお方なのです。
両手が黒猫に触れます。逃げようとはしません。
黒猫はそのままフランドール様の腕の中へと移りました。暴れるような様子は一切ありません。
本当に大人しい猫ですね。大抵の猫は、知らない人に触られそうになると暴れるはずですのに。
「わぁ……」
猫を抱けたことがよっぽど嬉しいらしく、そんな声が漏れてきています。猫を見る瞳も見た目相応に輝いています。そして、羽もぱたぱたと揺れて、分かりやすいほどに感情を外へ溢れ出させています。
こちらの理性が破壊されかねないほどの可愛さです。勝手に頬が緩んできます。
「わっ」
しかも、黒猫の仕草も私に抱かれていたときと全く違っています。私に抱かれていたときは全然動かなかったと言うのに、フランドール様の腕の中では動いています。
それも、暴れるためではなく、フランドール様の頬へとキスをするため。身体を起こしてフランドール様の顔へと顔を近づけたのです。
そして、そのままフランドール様の肩に頭を乗せて身体を預けてしまいます。
黒猫も黒猫でかなり可愛いです。
そして、フランドール様は、キスのお返しとばかりにゆっくりと黒猫を頭からから背中にかけてを撫でていきます。
フランドール様に撫でられて気持ちが良いのか、安心しきったような表情を浮かべています。
その位置は羨ましすぎますし、その表情は抱き締めてください、と言ってるようなものですよ!
「……ふふっ」
しかもしかも、それに付け加えてフランドール様は、そんな黒猫の表情を見て、それはそれは心の底から嬉しそうな表情を浮かべています。
こんな一人と一匹を見ている私の方が至福ですよ!
もう、至福すぎて自分を抑えられません。見ているだけなんていうのは辛すぎます!
なので、私はフランドール様の後ろへと回り込みます。黒猫を撫でる事に夢中なようで、気づく気配はありません。
難なく背後に回った私は、背中からフランドール様を抱き締めました。腕に腕を重ねるようにしているので、黒猫も一緒に抱き締める形になります。
羽が当たって少々痛いのですが、そんなことは気になりません。
「あー! もうっ! フランドール様も、その子も可愛すぎですよ! もう、大好きです!」
「え、ちょっと、こ、こあっ?」
突然抱き締められて、わたわたとするその姿も可愛らしいです。なので、抱き締める腕に、より一層力を込めてしまうのです。
ぎゅーっとして、その温もりや柔らかさを堪能します。
「……いつまで、こうしてるつもりなの?」
けど、しばらくすると、慌てたような様子はなくなり、代わりに恥ずかしげな声でそう聞いてきます。レミリア様に抱き締められる時は、全然そんな様子を見せないというのに。
やっぱり愛の量の違いなんでしょうかね。
さすがにあの方のフランドール様への愛には勝てる気がしないのです。
「ずっとです! ずっと! 私の気が済むまで!」
けど、情熱だけはあるので本気でぶつけていきます。欲望と呼び変えるのも可です。
「出来れば、今すぐ放してほしいんだけど。それに、夜が明けたら陽が出てくるし」
そういえば、吸血鬼は陽に弱いんでしたよね。でも、ご心配はいりませんよ。
「では、その前に私の部屋に行きましょう。そうすれば、太陽の光なんてへっちゃらです」
というわけで、ずーるずると引っ張ってとりあえず玄関の方を目指します。
「わっ、待って! こあ、止まって!」
「一度動き出したら止まれないのですよー」
再びフランドール様がわたわたとし始めます。そんな姿を見せられたら余計に頑張っちゃいますよー、私。
と、そんなことを思っていると、不意に腕の中から暖かさが消えてしまいました。代わりに、ふわふわの物体を抱き締めることとなります。
あと、転びそうになってしまいましたが、なんとか踏ん張ります。
ふむ、逃げられてしまったようですね。
「こあ?」
一度姿を消したフランドール様が再び私の前へと現れます。
けど、今まであった柔らかさはなくなって、険の混じった視線でこちらを見ています。
しかも、その手にはレーヴァテインが握られていて、切っ先がこちらへと向いています。杖なのにそのまま刺突武器にもなるんですよね、あれ。
どうやら、やりすぎてしまったようです。
けど、こんな時でも、怒ったときのフランドール様は凛々しいなぁ、なんて思うのが私なのです。
普段の雰囲気が柔らかいからこそ、時折見せる鋭い視線も大好きです。
「ごめんなさい、調子に乗りすぎました」
けど、長く様子を眺めることはせず素直に頭を下げます。後に禍根を残さないためにも、怒らせたらすぐに謝るのが私のやり方なのです。
加減してるつもりでも、ついついやりすぎるときがあるんですよね。今回のように。
どうにも抑えがきかないんですよねぇ。自分に素直すぎるのも問題ですよね。
「はあ……。こあがこうして謝るの何回目?」
怒りはすぐに収まってくれたようです。レーヴァテインを下ろしてくれました。
その代わりに、呆れた声と溜め息とを返してくれます。
「さて。数えるのが面倒くさいので覚えてないですね。フランドール様は数えて下さってますか?」
「そんなの、いちいち数えてないよ。……数が増える度に憂鬱になってきそうだし」
再び溜め息。
「そんなに何度も溜め息を吐いてると幸せが逃げちゃいますよ」
「誰のせいだと思ってるの?」
「ふむ、状況的に私のせいでしょうね。ではでは、お詫びに幸せのハグを」
「いらない」
ばっさりと切り捨てられてしまいました。
「それは残念ですねー」
抱き締められないのなら、ということで代わりに黒猫の首を撫でてあげます。寂しさを紛らわせるためです。
指を立てて掻くようにしてあげると、気持ちよさそうに目を細めてくれます。
恐ろしいくらいに可愛らしかったので、そんな姿を見せてくれたお礼に今度は耳の付け根を撫でてあげました。
そうすると、よほど気持ちがよかったのか気の抜けたような音を口から漏らします。
その姿に自然と笑みが漏れてきます。
思わず、ぎゅーっと抱き締めてしまいます。そうすると、抗議の声を上げられてしまいました。
最初も同じような事をして抗議の声を上げられてましたね。
「フランドール様、羨ましいですか?」
こちらをじーっと見ていたフランドール様へとそう聞きます。気持ち、意地悪そうな笑みを浮かべて。
レーヴァテインは収めてくださったようです。ただただ、黒猫の方へと視線を向けています。
それにしても、いつもなら私に抱きつかれたら一目散に逃げていくのですが、そうしないのは猫がいるからでしょう。
フランドール様が本当に猫好きなのですね。
「う、うん」
少々警戒しながらも頷いてくれます。
その小動物的仕草に再び嗜虐心を刺激されてしまいます。ついでに、程良くその心を満たす方法も思い浮かんできてしまいました。
「では、どうぞー、と言って差し上げたいのですが、私も離し難くなってしまったんですよ」
黒猫の再び首を撫でて上げながら、そう言います。
柔らかいですねぇ、この子。きっとフランドール様も触れてみたい、と思っているはずです。
「ですので、取引です。夜明けまで、フランドール様のことを抱き締めさせてもらってもいいですか?」
「……十分なら」
先ほどもすぐに離して欲しい、と言われたので当然のように通りませんでした。
まあ、惜しいですが欲張りはよしておきましょう。あんまり無茶な要求を通そうとすると、結局何も得られない、という事もありますし。
「短すぎです。せめて、二時間で」
「じゃあ、二十分」
「ふーむ、そんなに短くてはこの子は渡せませんねぇ」
ここで一端話を打ち切って、黒猫の方へと視線を向けます。お互いに顔を向き合わせることだけが、交渉ではないのですよ。
「ふふー、どうですか、気持ちいいですか?」
見せつけるように腕の中の黒猫の首を笑顔で撫でてあげます。心の底から黒猫の姿に癒されてるので、笑顔は本物ですよ?
まあ、偽物の笑顔を浮かべる事も出来ますが、可愛いものを前にしたときの笑顔は本物にしておきたいのです。
「な、なら、一時間っ!」
もうこれ以上は妥協出来ない、とばかりに少し声を張り上げます。右手を胸の前でぎゅっと握っています。
それにしても、一気に伸ばしてきましたね。次は三十分くらいだと思ったのですが。
まあ、このくらいで妥協しておきましょう。
「しょうがないですね。では、それでいきましょう」
猫好きなフランドール様にこちらの要求をのんでもらうには、猫を使うのが効果的というのは覚えておきましょう。またいつか、存分にフランドール様を抱き締めたくなる時が来るかもしれませんし。
「ではでは、どうぞー」
黒猫を放すのは惜しいですが、フランドール様を存分に抱き締められる機会なんてそうそうないので、我慢します。
フランドール様は、最初とは違いすんなりと黒猫を抱き締めます。それだけで、頬を緩ませて可愛らしい表情を浮かべられるんですから、本当に猫が好きだということが伝わってきます。
というか、その表情は反則ですよ。
「というわけで、遠慮なく抱き締めさせてもらいますねー」
「う、うん」
先ほどのように後ろからぎゅっと抱き締めさせていただきます。これから、存分に抱き締められるんですからゆっくり堪能しましょう。力を入れすぎると、羽の付け根が痛いですし。
「ねえ。そういえば、どうやって一時間を計るの?」
不安げな表情を浮かべてこちらへ顔を向けてきます。まあ、横顔までしか見えないのですが。
ちなみに、ここの庭からだと、館の時計塔は見えません。私は一応時計を持ってはいますが取り出すつもりはありませんし、この様子だとフランドール様は時計を持っていないのでしょう。
「私が大体一時間経ったなぁ、と思ったら離して差し上げます」
「え! 駄目っ、そんなの!」
フランドール様が自分の失態に気付いたようで慌て始めます。でも、もう遅いのです。
「ちゃんと確認しなかったフランドール様がいけないんですよ」
「でも、今から時計を取ってくればいいんじゃないの?」
「聞く耳持ちません」
「うー……」
不満げな表情を向けてきますが、その程度でなびく私ではないのですよ。むしろ、抱き締める腕に力が入ってしまうのです。
それに、フランドール様自身、本当は嫌がってないんじゃないかな、と思います。先ほどのように逃げ出す様子もありませんし。
まあ、単に約束をしてしまったから逃げ出さないだけなのかもしれませんが。律儀ですからねぇ。
フランドール様の中で諦めがついたのか、小さく溜め息を吐いた後、前へと向き直ります。
それから、黒猫の頭を撫で始めました。私もその真似をするように片手でフランドール様を抱いて、頭を撫でてみます。
さらさらの金髪は絹のような手触りで、いつまでも撫でていたい、と思います。なので、一度では飽きたらず何度も何度もその小さな頭を撫でることにします。
「……こあ? 頭を撫でて良い、って言った覚えはないんだけど」
「あれ? そうでしたか?」
すっとぼけてみます。
「うん」
嫌がっている様子がないので、無視して継続することにしました。フランドール様は何度か頭をぷるぷると振りますが、私にやめるつもりがない、とわかったのか、再び小さく溜め息を吐いた後、猫を撫で始めます。
そんなに、溜め息ばかり吐いてると幸せが逃げますよー。そんなことを思いながら、私はフランドール様から幸せを供給させていただきます。
なんだか私が無理矢理幸せを奪い取ってるみたいですね。そんなつもりはないのですが。
「少し聞いてみたいんですけど、私とレミリア様、どちらに抱き締められる方が落ち着きますか?」
ふと、そんなことを聞いてみます。私は抱き締めてるだけでもいいんですが、フランドール様が退屈してはいけませんので。
「お姉様」
答えは予想通りでしたけど、答えるまでの速度が予想外でしたね。もう少しくらい悩んで欲しかったのですが。
悔しいので、頭を撫でるのをやめて両腕でぎゅっとします。
「こあの抱き締め方は色々足りない」
「色々、ですか?」
気に入らなかったのか、駄目出しをされてしまいました。
抱き締めたい欲求だけは誰にも負ける気がしないのですが。
「うん。落ち着きが足りない、思いやりが足りない、気配りが足りない、柔らかさが足りない、温もりが足りない、優しさが足りない、穏やかさが足りない」
次々と足りない部分が挙げられていきます。
「それから、愛が足りない」
そして、最後にものすごく穏やかな声でそんな事を言いました。
私の嫉妬心を刺激するつもりでしょうか。
いや、一番はパチュリー様ですし、レミリア様の愛に勝てないこともわかってるんですけどね。
けど、こうして間近で見せつけられると、こう、もやっとくるのです。
「だから、こあの抱き締め方は全然駄目。なってない」
「ほっほう。言ってくれますねぇ」
全力を込めて抱き締めようとしました。けど、抱き締めていたのは自分の身体でした。
最後の希望の、もふもふさえも残っていないとは。
「フランドール様、まだ約束の一時間が過ぎてませんよ」
黒猫を抱き直そうとするフランドール様が私の前に立っています。黒猫は、姿を消す前に前方に投げていました。
こんな状況でも慌てない黒猫はどんな人生を歩んできたんでしょうか。気になりはしますけど、今はそれ所じゃないですね。
「私の体感時間では一時間が過ぎたんだよ。じゃあ、私は適当な場所でこの子と遊んでるね」
そう言って、私に背を向けてしまいます。
「ああ、それと、所構わず無理矢理抱き締めるのは一番ナンセンスだと思うよ」
けれど、歩き去る前に振り返って、そう言い残しました。追いかける事はしませんでした。おそらく今日はもうこれ以上関わろうとしても、あしらわれるだけでしょうし。
ふーむ、自分の気持ちに素直になりすぎた結果、気晴らしのための相手を一人と一匹同時に失ってしまったようですね。
寂しいですねぇ。
寒いですねぇ。
先ほどまで、フランドール様を抱き締めていたのでより一層。
……ふむ、そろそろパチュリー様の所へと戻りましょうか。
あまり有意義なお散歩とはなりませんでしたが、パチュリー様が恋しくなってきましたし。
図書館に戻ったらまずは、パチュリー様に飛びついてみましょう。どうせ、魔法やらなんやらで弾かれたりするんでしょうけど。
でもまあ、行動あるのみ。考えなしの行為だってもしかしたら偶然で実ってくれるかもしれませんし。
そんなことを思いながら、くるりと進行方向を変えたのでした。
まあ、フランドール様の考えにも同意できますが、これが私のやり方なのですよ。
Fin
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