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 それは、私がまだ目を閉ざしていないときのことだった。





 サトリの食事は他者の心だ。そのために、相手に恐怖を植え付けて、時にはそのまま壊してしまう。
 でも、私にはそれができなかった。生まれを間違えたのではないだろうかと思ってしまうくらいに、誰かに怖がられるのが嫌だった。まだまだ誰かを陥れるほどの力を持っていなかったとき、両親が持って帰ってきた他人の怖がる姿の記憶を見て泣き出してしまうほどに。それでも、直接怖がられるよりはましなのだろう。未だに誰一人として怖がらせたことのない落第者には、わからないことだけど。
 自虐的に自嘲気味に思考を回していたらお腹が鳴った。そして、視界が回りそうになっていることを思い出してしまう。道から少し離れた場所にいるから、草木くらいしか見えないけど、そのどれもが若干歪んで見える。
 食事は生きるために必要なものだ。そしてその量は、成長するごとに増えて行く。
 昔の私であれば、親鳥が運んでくる食事を啄むように、間接的な恐怖を摂取していれば事足りていた。でも、今はもう足りなくなってしまっている。茶碗一杯程度のご飯では到底足りないほどに育ち盛りなのだ。
 その上、二日ほどはその一杯のご飯でさえ避けてしまっている。だから、私の身体は食事が必要だということを過剰なほどに訴えている。
 だからといって、怖がられにいきたいとは思わなかった。餓死してしまうのなら、それはそれで別にいいと思っている。死にたいという願望があるわけではないけど、他人の恐怖の上に成り立った生も望んでいない。私は、好かれたい。
 また、お腹が鳴る。先ほどよりも音が大きくなってて、恥も外聞もあったものではない。どうせ死ぬなら、もっと風情よく死にたい。
 と、私のお腹の音が誰かに聞こえてしまったようだ。わざわざ草をかき分けて、こちらに向かってくる。面倒なことになる前に逃げないとと思うけど、身体は思うように動いてくれない。そういえば、動けなくなりそうだからと、こんなところに逃げといたんだった。

「ねえ、君、だいじょう、ぶ……?」

 ついに見つかってしまう。
 私を見つけた少女は、最初、私を人間の娘だと思っていた。でも、作り物めいた不気味な藍色の目と私をサトリという呪いに縛るために存在しているかのような管とを見て固まってしまう。
 今は茫然自失としているせいで何も見えないけど、じきに恐怖に染まってしまうはずだ。ああ、ここで私は初めて誰かを怖がらせてしまうのかと静かに絶望する。

「……あ」

 自我を取り戻した彼女は、まず私がサトリだと思い至る。そして、この辺りで度々作られる心を失って空っぽとされてしまった人の姿を思い出して、恐怖がにじみ出てくる。
 それが、私を満たしてしまう。そのことが無性に悲しくて、泣きたくなってしまう。

「え、な、何で泣いてるのっ? ど、どこか怪我でもしてるっ?!」

 それどころか、実際に泣き出してしまっていたようだ。
 彼女は私の涙を見てうろたえ始めた。こんな半分死体のようなのを見れば、それ幸いと逃げるなり殺すなりしてしまえばいいのに、心配するなんて変な人だ。確かに、今の私は弱々しく見えるけれど、だからといって私が心を喰らう妖怪であることには代わりはないはずだ。私個人にその気はなくとも、他人にはわかりはしないのだし。

「えーっと、えーっと、どうすればいいんだろ。ああそうだ。そういえば、お腹を鳴らしてたからお腹が空いてるのよね。そうよね?」

 首を縦に振っても横に振っても面倒くさいことになりそうだった。なら、適当に食べ物を貰って、お腹の膨れた振りでもしてさっさと退散することにしよう。幸か不幸か、先ほどのほんの少しの恐怖のおかげか、はたまたせいで、なんとか動ける程度にはなっている。
 というわけで、首を縦に振る。
 そのときになってようやく、人里の中で袋叩きにされるかもしれないと思い至る。彼女自身は私を助けようと思っているけど、彼女が人里の総意であるはずがない。
 でも、人に見つかってしまった時点で、どうしようもないかと考え改める。嫌な予感が的中していたら、すぐに死ねるように祈っておこう。

「よし、お腹が空いてるのね。じゃあ、私の家に……ってそれはまずい。じゃあ、ここまで持ってくるから、ちょっと待っててちょうだい!」

 言い終わる前に駆け出してしまう。今の彼女に、私は今すぐにでも死にそうな存在として映っていた。
 なんとか動くことはできそうだから、今の内に逃げてしまおうか。でも、探させてしまうのも忍びない。なんだかあの様子だと、見つかるまで私のことを探しそうな気がする。
 だから、逃げたくなる気持ちを押さえ込んで、ぼんやりと大人しくしているのだった。




 しばらくして、少女が走って戻ってきた。手には笹の葉と竹の筒とがある。笹の葉の方にはご飯の中に具を入れて握ったおにぎりと呼ばれるものが包まれており、竹筒の方には茶葉を煮出したお茶と呼ばれるものが入っている。私のことをとても心配しながら作ってくれたらしいことが、記憶から伝わってくる。

「ま、待たせちゃって、ごめん、なさい。これ、どう、ぞ」

 息を整えることなく笹の葉と竹の筒を差し出してくる。私はとりあえず、笹の葉の方を受け取る。彼女の想像の中での私は、最初にそちらの中身を口にしていたから。
 意外な重さに驚きながら笹を開くと、三つのご飯の塊が視界に入ってきた。それぞれ違う具が入っているようだ。好き嫌い以前に人間の食事なんて口に入れたことがない。だから、適当に右端のものを手に取る。
 中に入っているのは、高菜漬けと呼ばれるものらしい。
 少女から離れるために、さっさと食べてしまうことにする。
 口の中へ何かを入れることに若干の抵抗を感じながら、一口かじる。物を食べるということを知らない上に、あまり力の入らない私の口からは、米の粒がぽろぽろとこぼれていく。
 でも、そんなことを気にしている余裕なんて、遠くのどこかへと吹き飛ばされてしまっていた。
 口の中へと味が広がるのにあわせて、感情が溢れ出してくる。口を動かす度に満たされていくのが感じられる。そこに不快が混じらないのは、かつてないことだった。
 気が付けば、私は二口目を口にしていた。飲み込むのも待てずに、次々と詰め込んでいく。

「そんなに慌てなくても、誰も取らないわよ」

 その声で、この場に私以外がいるということを思い出して、落ち着いてくる。口の中の物を飲み込んで、人心地つくと同時に溢れてきたのは、生きているという実感だった。それは、涙と嗚咽という形を伴っていた。
 今このときまでは、無理に生かされていると感じていた。だから、生きるのに必要なものが満たされていくという事に、こんなにも幸せを感じることなんてなかった。
 それが嬉しくて、どうしようもないほどに嬉しくて、次々と溢れ出していく。
 少女は私が突然泣き出したことに戸惑っている。申し訳なさを感じながらも、私にできるのは感情をただただこぼしていくことだけだった。




「……ご迷惑をおかけしました」

 ようやく落ち着いてきたところで、頭を下げる。今までないほどに気分は爽快で、意識も明瞭としている。世界はこんなにもくっきりとしていたのかと、少々驚いてしまう。

「だ、大丈夫。気にしてないから」

 私の丁寧な態度が意外だったようで、今度はそちらに戸惑っている。失礼なとは思うけど、命の恩人に対してそれくらいのことで怒るのもどうかと思って自重する。妖怪は人間を襲うのが普通だから、礼儀正しくないと思われてしまうのも仕方がないとも思うし。
 少女は言葉とは裏腹に、私が泣き出した理由を知りたがっている。でも、私を気遣って実際に聞こうとはしてこない。
 とりあえず私は、おにぎりの残りを一口かじる。私の舌が今感じている味の名前はわからないけれど、美味しさを噛みしめて味わう。一個だけ、お姉ちゃんに持って行ってみようか。お姉ちゃんは、私と違ってしっかりとサトリをやっているから、これを食べたところで私ほど満たされるという事はないのだろうけど。

「私は落ちぶれ妖怪なので、人間を襲うことができないんです。だから、飢え死にしかけていました」

 不快を少なく生きていく方法を見つけるきっかけをくれたことに対するお礼として、疑問に答える。
 最初は突然何を言っているのだろうかと思われていたけど、すぐに私が事情を話しているのだと理解してくれる。そして、新たな疑問を抱いたのが見えるけど、言葉にして投げかけられるまで待つ。

「この辺りだと、近場で魚が採れたような気がするけど」
「妖怪に囲まれていると、人間と同じ物を食べて満たされるという発想は出てきませんよ。最初は、あなたの持ってきてくれた物を食べたら、満たされてる振りをして逃げるつもりだったんです」
「それで、どうするつもりだったの……?」
「そのまま野垂れ死ぬのもいいかなぁとは思っていたんですけど、もしかしたらお姉ちゃんに助けられていたかもしれませんね」

 間接的な恐怖では、飢餓感をなくすことはできない。でも、死ぬことはなくなる。人を襲うことがなくとも、こうして今の今まで生きている私がそれを証明している。
 お姉ちゃんは私が嫌がっているのを理解していても、生かそうとしてくれているのだ。他のサトリたちはほとんど私を見捨てているのとは対極に。

「でも、私が思い描いてた行く末とは違って、あなたが作ってくれたこれに助けられました。あなたの私を助けたいという想いが、私の活力になってくれたようです。ありがとうございます」

 もう一度、頭を下げる。向こうはそんなことを望んでいないけど、私にできるのはこれくらいしかない。いらない力だけを引っ提げていて、それ以外にはなんにもないのだ。その唯一の持ち物にしても、できる限り使いたくはない。

「どういたしまして。……でも、そんな平身低頭な態度を取られると、その、困る。君を助けたのは、自己満足なんだから」
「じゃあ、私も自己満足のためにこうしてるので、お互い様ということで」

 自己満足でも、お互いに害がないのなら別に構わないだろう。

「さて、私のせいであなたに妖怪と繋がってるなんて噂が立ってしまったら申し訳が立たないので、そろそろ行きますね。これ、貰って行ってもいいですか?」

 私が指し示すのは、二つのおにぎりが残っている笹の葉とまだ口を付けていない竹筒だ。答えはわかっているけど、自己完結するのは気に入らない。だから、わざわざそう尋ねた。

「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます。おにぎり、美味しかったです。では、さようなら」

 許可を貰えたから、少しふらつきながらも立ち上がって、人目に付かなさそうな方へと向かっていく。まだ活力が全身に行き渡ってはいないみたいだけど、いずれ真っ直ぐ歩けるだろう。

「どういたしまして。気をつけるのよ。それと、もしまたお腹が減ったら私に会いに来てもいいのよ」

 魅力的なお誘いではあったけど、約束を残すようなことも誘いを断ることもしなかった。
 彼女の中に微かにあるサトリへの恐怖が私へと向いてこないだろうかと思うと怖かったのだ。




 いつもよりも数段元気な身体を弾ませるように進ませて、木にもたれかかってぼんやりと座り込んでいるお姉ちゃんを見つける。何もしていないときは大体この調子だ。

「お姉ちゃんっ」

 お姉ちゃんが私の声に驚く。そういえば、ここまで元気な声が出るというのも初めてのことかもしれない。親鳥の運んでくる物だけで十分だったときを含めればそんなことはないのかもしれないけど、覚えてなんていない。

「私、これからも生き続けてく方法見つけちゃった」

 それが喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのかはわからない。でも、私を助けてくれたあの少女のようなのがいるのなら、多少の価値くらいはあるのかもしれない。
 それに、お姉ちゃんが喜んでくれているから、それだけでもいいのかもしれない。
 誰からも期待されて孤高なお姉ちゃんは、誰からも見捨てられて孤独な私を唯一受け入れてくれている存在だ。お姉ちゃんはサトリとして多くの人間の心を喰らっているけど、その部分は仕方がないと私も受け入れている。私が飢え死にしそうになっていたからといって、その場面を押しつけてくるというのに辟易として、逃げてしまってはいたけど。

「というわけで、お姉ちゃんにお土産。一緒に食べよ?」

 どうやって生き延びるかを長々と語ったって仕方がないから、二つのおにぎりが乗った笹の葉をお姉ちゃんの方へと差し出す。そもそも既に伝わってしまっているだろうけど、素直にサトリの力に頼ってしまうのは癪なのだ。
 私と同じで、一度も何かを食べたことのないお姉ちゃんは、おにぎりを手に取ると警戒しながら口元へと近づけていく。私の記憶のおかげで、安全だとはわかっていても、知らない物から身を守るという本能は無視できていない。そのことを考えると、私はずいぶん無防備に口の中に入れたものだと思う。さっさと逃げたかったのと、空腹のせいで本能が真面目に働いていなかったのだろう。
 頭の片隅でそんなことを考えながら、お姉ちゃんはどんな反応をするのだろうかと思いながら、じっと見つめる。
 しばらくしてから、ようやくお姉ちゃんは覚悟を決める。大げさだなぁと思っていると、初めてのことなんだから仕方がないと情けない感じの思考を返しながら動きを止める。

「そんなこと考えてないで早く早く」

 こっちに気が向いたせいで薄れた覚悟を補うようにそう言う。それでようやく、お姉ちゃんはおにぎりを口の中へと入れてくれた。
 その瞬間に、私が感じたものよりは弱いながらも、感動を感じていた。
 私はそのことに満足を感じながら、お姉ちゃんに寄りかかるようにしながら隣へと座り込む。最後の一つのおにぎりを手に取ってかぶりつく。お姉ちゃんと同じ感情を共有していることを喜びながら満たされていく。幸せが私を包んでいる。
 感情をいっぱいいっぱいにしている私とは対照的に、お姉ちゃんは冷静だった。冷静に私を生きながらえさせる方法を考えていた。

「料理するの?」

 私がそう聞くと、肯定の意志が返ってくる。お姉ちゃんは口を開くのを面倒くさがって、私を含めてサトリの前で口を開くことは滅多にない。

「料理するには、道具とか設備とかがいると思うけど、どうするの?」

 具体的な案はないようで、なんとかするという頼もしいのか頼もしくないのか微妙な線のやる気だけが返ってくる。どうすることもできなければ、料理を盗んでくるという案まである辺り、なんとも不安だ。
 でも、お姉ちゃんに必要とされているというのは、強く感じることができて嬉しい。
 そんな気分の良さを付け合わせにして、おにぎりをまた一口かじるのだった。





「……こいし。こいし!」

 不安混じりの声で、お姉ちゃんが私を呼んでいる。
 私の意識が、自分が地霊殿の食堂でお姉ちゃんと夕食を食べていたということを認識する。

「お姉ちゃん……?」

 反射的に口から出てきた声は、思っていた以上に不鮮明だった。

「大丈夫? すごくぼんやりとしてるみたいだけど」
「だいじょうぶだいじょうぶ。白昼夢を見てただけだから」
「それは、大丈夫とは言えないんじゃないかしら? 食事が終わったら、早く寝なさいね」

 冗談を言ったらかなり心配されてしまった。でも、昔のことを思い出していたとは言い辛かった。
 いつからから、私は時折昔のことを思い出すようになっていた。大抵は嫌な思い出ばかりで、今みたいに現実に立ち返ってきた後は、逃げられもしない記憶たちから逃げようとして、意識も目的地も手放して放浪をしてしまう。
 今回の思い出は、まともな記憶だった。私が生きるための手段を見つけたときの記憶だ。結局あのあと、少女との関わりはあったのかだとかお姉ちゃんがどうしたのかだとかは、今思い出せる限りの記憶の中にはない。今のお姉ちゃんを見る限り、なんとかして料理ができるようにしたのだろう。少女との関わりの方はどうなったのかわからない。今まで思い出してきた記憶からして、どうせろくでもない結果に終わっているのだろうけど。良くてあのまま関わりがなかったくらいか。

「お姉ちゃんって、どうやって料理を覚えたの?」

 止まっていた手を動かして、お姉ちゃんの料理を箸で口元へと運びながら聞く。口の中へと入れると、いつも通り私を満たしてくれる。今でも、変に意識をしすぎると泣きそうになることがあるくらいに。

「え? ……そうね、人間の家の壁に張り付いて、食事を作っているときの思考や視界を読み取りながら覚えていったわ。料理自体は、やってみるとそう難しくはなかったんだけど、竈なんて便利なものがなかったから、火の管理が大変だったわね。慣れない内は何度火事を起こしかけたやら」

 たぶん、突然何を聞いてくるのだろうかと思ったことだろう。それでも、ちゃんと答えてくれた。意識を手放した状態の私に慣れてしまっている。それに、お互いの心が見えなくなってからは、饒舌になったように思う。そもそも、喋ることさえなかったし。

「その苦労のおかげで、お姉ちゃんの料理には愛が染み込んでるんだ」
「……愛を染み込ませるために、苦労を重ねたのよ」

 恥ずかしそうに言い返してくる。照れるくらいなら言わなければいいのにと思うけど、言いたくなるくらいの愛があるのだと思うと身悶えしたくなってくる。……意識が明瞭なときにこんなことを考えるべきではなかった。なんだか口惜しいから、表には出さないようにするけど。

「まあ、貴女を救うためだと思えば、苦労というほどの苦労でもなかったのだけれどね。それにね、作る度に、わざわざ声にする必要もないのに、大げさなくらいに褒めてくれていたから、自然ともっと頑張ろうっていう気にもなっていたのよ」

 嬉しそうな表情を浮かべていたかと思うと、すぐに少し寂しそうな表情に切り替わってしまう。
 その理由には、すぐに思い至った。そう言えば、そんなことをした記憶はどこにもない。

「お姉ちゃんの料理は世界一美味しい。それはもう、世界中の料理人が集まってきても絶対に勝てないくらいに。私が保証してあげる。お姉ちゃん、私のためにがんばってくれてありがとう」

 少しばかりわざとらしかったかもしれない。でも、嘘はどこにもない。昔の私もきっとお姉ちゃんの料理は世界一だと思っていたことだろう。放浪の過程で、他人の家のものを摘み食いする現在の私が言うのだから間違いない。実はお姉ちゃん以外の料理は記憶の片隅にも残っていないというのは、見えないところに置いといて。

「取って付けたような賛辞ね。でも、ありがとう。それと、どういたしまして」

 私の言葉を信じてくれていないのか、微妙な反応だった。傍目には、寂しげな表情の変わりに、呆れが浮かんできたようにしか見えない。
 そのことを不満に思いながらも、また止まってしまっていた箸を動かして、料理を口に含む。私の言霊でも宿ったのか、さっきよりも世界一を上に上げていた。その分だけ、頬が緩んでしまう。
 そして、今更ながらに私の言葉を信じてくれたのか、はたまた私の言葉を疑ったまま私の様子に満足したのか、お姉ちゃんは嬉しそうな笑顔を浮かべている。
 茶々でも入れてみようかと思ったけど、無粋な気がしたからやめる。
 代わりに、幸せな空間の中で、心の中を満たしていく。

 私はまた明日もお姉ちゃんの愛情を糧に生きていくことだろう。





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