◇Epilogue
地霊殿の前、そこで一つの影が出入り口を塞いでいる。けど、滅多に来客のないそこでは、それを邪魔に思うものはいないだろう。
そこには三人がいた。さとりが正面から、フランドールが背後からこいしを抱くことで、三人分の影は一つとなっている。
「……あ」
不意に、さとりが声をこぼす。
「さとり、どうしたの?」
「……こいしの心が、見えなくなってしまいました」
そこに付随するのは、寂しがっているような、けどそれを仕方ないと思っているような表情。覚り妖怪としては、そのまま目を開いてほしいと思っていたが、過去どんなことがあったかを知っているからこそ、強制はできないのだろう。
「え……」
フランドールは最悪を予感したのか、表情に影が浮かび、こいしを抱く腕に少し力がこもる。
「いえ、心配するようなことではありませんよ。今までは、フランドールさんへの依存から目が開いた状態を維持していたようですが、それが薄れた今となっては開き続けている意志もなくなり、閉じてしまったようです。……やはり、いくら時間が経とうとも恐怖はなくならないですね」
そう言いながら、慰めるようにこいしの頭を撫でる。再び目が閉じきる直前、二人で何か通じ合っていたのかもしれない。
そうしてしばらく、三人は無言となる。真ん中に挟まれるこいしのために、穏やかな空気がその場を包む。
「フランドールさん、ずっとここにいるというのもなんですし、中に入りませんか? ココアもご用意しますよ」
こいしが落ち着いてきたころ、それを感じ取ったさとりがそう言う。こいしの頭を撫でる優しげな手は止まっていない。
「うん、幸せになれるような暖かさと甘さでお願い」
「はい、わかっていますよ。こいし、少しの間離れててくれる?」
「……そんな諭すように言われなくてもわかってる」
少しばかり不機嫌そうな声。けど、少しばかり不安そうでもある。
「そうね。ごめんなさい」
さとりはこいしを優しくそっと放す。そして、その代わりに手を握る。
いつこいしを離そうかと機を窺っていたフランドールも、それを見てこいしの空いている方の手を握る。
こいしは自分を想ってくれている二人の間で、まだ涙の跡の残る顔を拭えないまま、幸せそうな笑みを浮かべていた。
心を見抜く瞳は柔らかく閉ざされている。
Fin
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